10月の衆院選で自公与党が過半数割れして初めての本格的な論戦となる臨時国会で、所信表明演説に対する各党代表質問が始まった。衆院では、大きく議席を増やした野党の議員から、石破茂首相が答弁中に激しいブーイングを受ける場面が増え、首相が劣勢に立たされていることを印象付けた。
企業献金は不適切でない
企業・団体献金について、立憲民主党はリクルート事件を受けた1994年の政治改革から残された「30年来の宿題」とし、野党で結束して禁止を自公に迫る戦略だ。
立民の野田佳彦代表は質問で、首相が所信表明演説で献金問題に触れなかったことを批判した。首相は、政治資金の「高い透明性を確保する」とし、政治資金収支報告書のデータベース構築に言及した一方で「政党として避けなければならないのは、献金によって政策がゆがめられること」と答弁。企業・団体献金自体が不適切ではないとの考えを示した。
自民は、企業・団体献金について有識者ら第三者に議論を求めた上で結論を出すべきだとの立場。年内の結論を諦め、来年以降に先送りする方針も固めている。
「政治とカネ」を巡るもう一つの争点は、政策活動費の在り方だ。首相は「政策活動費を廃止し、自民党として法案を提出する」と断言した。ただし、外交上の秘密や支出先のプライバシー、営業秘密に配慮する必要がある場合など「一部の限定された支出は相手との信頼関係に関わり、公開の方法に工夫が必要だ」と発言した。当然の言い分だ。
野田氏は、自民の「政治とカネ」の問題を巡って「『信なくば立たず』の状況が、いつまでも続くのは、日本にとって大きなマイナスだ」と語気を強めるなど、「改革の本丸」と位置付けている。自民の党収入の約2割を占める献金を禁止することで、資金的に追い詰めるという狙いがある。
国民生活・経済の向上を差し置いてこのことばかり主張するのであれば、国民の理解は得られまい。政治資金の禁止や制限によって、むしろ政治資金の実態が見えなくなり、野田氏が言うところの「ブラックボックス」になるリスクが高まりはしないか。
立民の石川香織議員は、選択的夫婦別姓の実現を求めた。首相は「国民の意見が分かれている」ため、「国民各層の意見や、国会における議論の動向を注視していく必要がある」と踏み込んだ答弁は避けた。議論は尽くされていないのに、導入を急ぐ必要はあるまい。
政権安定の鍵は国民民主
少数与党にあって首相が頼みの綱としている国民民主党は、玉木雄一郎代表ではなく、当選3回の浅野哲議員が質問に立った。
浅野氏は「年収103万円の壁」の見直しを求めた。このほか、ガソリン減税、原発の再稼働・新増設、賃上げなど独自の政策提案に時間を割いた。石破政権を安定させるには、与野党との「等距離」を掲げる国民民主との連携が欠かせない。