政府はきょう、健康保険証の新規発行を停止する。マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」への移行を進めるためだが、マイナ保険証の利用率は伸び悩んでいる。政府はセキュリティー面などへの不安を払拭する必要がある。
トラブルで利用率低迷
マイナ保険証は2021年10月から本格運用が始まった。デジタル化によって事務手続きが円滑になり、他の医療機関での診療情報を生かした、より良い医療を提供できるなどの利点がある。転職や引っ越しで保険証を取り換える必要もなくなる。
厚生労働省によると、今年10月末時点で全人口の75%強に当たる約9400万人がマイナカードを保有し、マイナ保険証の登録者も約7700万人に上る。現行の保険証が使えるのは最長で25年12月1日までで、現行保険証やマイナ保険証を持っていない人には「資格確認書」が発行される。有効期間は最長5年間で更新も可能だ。
一方、マイナ保険証の利用率は10月の1カ月間で15・67%にとどまっている。厚労省によると導入後、他人の情報がひも付けられるミスが全国で約9000件報告された。患者本人かどうかを認証するカードリーダーの不具合によるトラブルも続発している。こうしたことが、利用率の低迷につながっているとみていい。
現行保険証の廃止方針は、当時の河野太郎デジタル相が22年10月に発表した。保険証として使うためにマイナカードを持たざるを得ない状況をつくり、普及促進と行政のデジタル化を進める狙いがあった。
しかし普及を急ぐあまり、医療現場の体制整備が追い付かないなどの混乱が生じている。不安を抱く人たちからは「現行保険証を残せばいいのではないか」との声も上がっている。廃止決定は拙速だったと言わざるを得ない。政府は丁寧な情報発信で登録者の不安を払拭しなければならない。
マイナ保険証がなければ無保険になると誤解している人もいる。特に保険証を利用する機会の多い高齢者に対しては、利点を含め分かりやすい説明が求められよう。どうしても不安が残る人には、現行保険証や資格確認書の活用も積極的に呼び掛けるべきだ。
政府は医療DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しており、マイナ保険証はその基盤となる。新型コロナウイルスの感染拡大で医療現場でのデジタル化の遅れが顕在化したため、全国の医療機関や薬局で電子カルテの情報を共有できるシステムをつくることで、感染症危機や大規模災害発生時に迅速に対応できる体制の構築を目指している。遅くとも30年には、ほぼ全ての医療機関で必要な情報を共有できるようにする計画だ。
まずは信頼回復に全力を
ただ保険証は健康に関わるものであり、マイナ保険証への移行を進めるには、もっと国民に配慮した手続きが必要だったのではないか。
重要性や利便性が高いとしても焦ってはならない。まずは信頼の回復に全力を挙げ、利用率を高めるべきだ。