臨時国会が開幕し、石破茂首相が所信表明演説を行った。自民、公明による少数与党だけでは予算案も法案も成立させられない厳しい政治状況になって初の本格的な論戦のスタートとなった。石破首相は「真摯(しんし)に謙虚に取り組む」姿勢を示したが、野党側も国民の負託に応えるための重責を自覚し、政局化せず緊張感を持って国会対応しなければならない。
改憲の本気度を疑う
石破首相は政治資金問題に関する「深い反省」から始めた先の臨時国会での所信表明とは異なり、自ら尊敬する石橋湛山首相が1957年2月に行った施政方針演説の文言を引用し、各会派が真摯に協議し、成案を得ることの大切さを訴えた。その上で、他党から丁寧に意見を聞き、可能な限り幅広い合意形成を図る考えを強調した。
先の衆院選の結果、与党は国民民主党に接近。今国会には経済対策を柱とした補正予算案を提出するが、国民民主の要求した「103万円の壁」の引き上げが盛り込まれた。そのため成立する公算が大きい。ただ、国民民主がすべての面で連携していくとは想定できず、不安定な対応を余儀なくされている。
懸念されるのは、採決の日程や審議の進行を差配する委員長ポストの半数近くを野党が獲得したことだ。予算案だけでなく国会全般のテーマで論争が繰り広げられ与野党の主戦場となってきた衆院予算委員会の委員長ポストは立憲民主党が得た。
野党共闘を求める立民が、与党に接近する国民民主の足を引っ張るため、意図的に政局化して委員会審議の円滑化を妨げないだろうか。30年前、少数与党だった羽田孜政権の時には、細川護熙前政権からの国会混乱の影響で暫定予算、暫定補正予算を組みながら、1994年度予算を成立させたのは同年6月。その2日後に内閣総辞職の表明に追い込まれている。
予算委員長だけでなく、憲法審査会長に就任した立民の枝野幸男元代表にも求めたいのは、各党各会派の意見をしっかり聞き、立民の野田佳彦代表が言う「熟議」のための論争のできる環境を整えることだ。憲法改正に反対だからといって議論を封鎖してしまうのであれば「熟議」に逆行する。石破首相は所信でその点をしっかりと注文しておくべきだったが、前回と同じ文言の繰り返しとなったのは、改憲実現の本気度を疑うものだ。
具体的な地方戦略を
石破首相はまた、重要政策の第一に「外交・安全保障」を挙げ「日米同盟をさらなる高みに引き上げたい」と意欲を示した。それは評価できる。ただ、トランプ次期米大統領は中国に対して強硬な姿勢を取る構えだ。中国と「建設的かつ安定的な関係」の構築を図るという首相の方針と両立できるのか、説明不足だった。
看板政策の「地方創生」では交付金を倍増するなどと語気を強めた。石破カラーを鮮明にした唯一のテーマだったが、どう「社会や経済の起爆剤とする」のかもっと具体的な戦略が聞きたかった。
今国会は来月21日までの24日間と短い。党派を超えた建設的で活発な論戦を求めたい。