一国二制度の形骸化と共に、政治的自由を失った香港の現実をまざまざと見せつけられた。
4年前の香港立法会(議会)選挙へ向けた予備選を巡り、「政権転覆を共謀した」として、香港国家安全維持法(国安法)違反で民主派が起訴された裁判で、香港高等法院(高裁)は、45人に禁錮10年から4年2月の有罪判決を言い渡した。
一国二制度が空文に
選挙を介し自らの政治的主張の実現を図るという民主国家で当たり前のことが、「国家政権転覆共謀罪」に問われ犯罪認定を受けたのだ。判決が示した罪とは、民主派が香港政府の予算案を否決し行政長官を辞任に追い込み、政府機能をマヒさせようとしたというものだ。
だが、これは議会制民主主義では当たり前のことだ。議会で過半数を制すれば、予算案に不備があれば否決できるし、香港政府のトップである行政長官への不信任決議も可能だ。その当然の権利を、国安法違反でひとくくりにして断罪した。これは国家が国民の政治的権利や自由を奪う弾圧にほかならない。
中国に批判的な論調で廃刊に追い込まれた香港紙・蘋果日報(アップル・デイリー)の創業者である黎智英(ジミー・ライ)氏の裁判も再開されている。黎氏は香港で民主派メディアを率い国安法違反に問われており、有罪となれば終身刑か禁錮10年以上が科せられる。
なお同裁判で「(米英など)外国勢力との結託」が問われている黎氏は、「法の支配と自由・民主主義の追求、言論や信教、集会の自由という価値観を掲げ、人々が自由を享受できるよう願ってきただけ」として否認した。香港の司法は、通常の政治活動を行っただけの人々を刑務所送りにしようとしているだけでなく、言論活動をも封印しようとしている。
こうした裁判は、国安法制定前の香港では考えられなかったことだ。2020年制定の国安法は「一国二制度」や「高度な自治」の貫徹を謳(うた)っているが、実際は国家分裂罪や政権転覆罪などの適用で政権批判を封じ込めようとする法律でしかない。
そもそも香港は1997年7月1日、英国から中国に引き渡される際、一国二制度の50年間の維持が約束された。しかし半世紀を待たないまま、国安法によって司法の独立などを柱とした法治システムは根こそぎに一掃され、港人治港の一国二制度は空文となった。香港返還時の当初、期待された「中国の香港化」とは真逆の「香港の中国化」が現実となったのだ。
国安法は香港を一変させた。街では密告が奨励され、誰もが口をつむぐようになった。言論機関だけでなく、市井の人々も強権の前に沈黙を強いられているのだ。学校の現場でも、ディスカッションは禁止され愛国教育が課せられるようになった。
民主国家は強固な連携を
3月には香港で国家安全条例が施行され、「香港の中国化」は深化するばかりだ。わが国は香港から脱出した政治難民への理解と保護を保障しなければならない。強権統治を続ける中国に対し、自由と民主と法による統治が保障された民主国家の強固な連携が求められる。