トップオピニオン社説長距離攻撃容認 露朝のウクライナ侵攻に対抗 【社説】

長距離攻撃容認 露朝のウクライナ侵攻に対抗 【社説】

米国のバイデン大統領がロシアの侵攻を受けるウクライナに対して供与した長距離ミサイルをロシア領内に使用することを許可した。任期2カ月となった最終盤の決定は、ウクライナ支援に慎重なトランプ前大統領が大統領に再就任することから、北朝鮮も加勢したロシアのウクライナ侵攻を少しでも踏みとどめる狙いがあると言えよう。

露は核ドクトリン改定

バイデン政権はウクライナへの武器供与に当たり、ロシアを刺激しないために長距離ミサイルの使用に制限を加えてきた。ロシアはウクライナと戦争をしていることを建前上は否定しており、国民を徴兵動員する有事とはしていないため一定の自制が働いているのも事実だ。

当初はウクライナの首都キーウを1週間程度で制圧しゼレンスキー政権を転覆させる「特別軍事作戦」だったが、電撃戦は失敗し、集落や都市を破壊し尽くす事実上の侵略戦争が2年9カ月も続いている。この間、ロシアは北朝鮮との軍事協力を深め、弾薬の支援だけでなく援軍も取り付けた。

苦戦にロシアのプーチン大統領は苛(いら)立ちを隠さず、戦術核兵器を運用する実戦訓練を行い、核ドクトリンを改定して非核保有国でも核保有国からの軍事支援を受けてロシアや同盟国を攻撃した場合は、両国家の共同攻撃と見なすなど、核威嚇のレベルを上げている。

この状況の中で米国がウクライナにロシア領への米国製長距離ミサイル使用を承認したことは、リスクとならないわけではない。だが、「戦争」と認めていないロシア側の強弁を逆手に取って、北朝鮮軍派兵によって劣勢のウクライナを少しでも有利にする対抗手段を与えなければならない事情は理解できる。

米国をはじめ北大西洋条約機構(NATO)に加盟する英国、フランス、ドイツなどからウクライナへの武器供与が行われなければ、ロシアの手に落ちてしまうことは明らかだ。武器供与は抑制しながらも、徐々に攻撃力の高い武器が認められた。逐次投入は否めないが、同盟関係のないウクライナに対するロシアの脅威が現実となったことへの緊急避難的な特例措置だけにやむを得ない面もあろう。

一方のロシアは、ベラルーシでの軍事演習と偽って動員した兵士、民間軍事会社「ワグネル」や刑務所の囚人を軍に入隊させウクライナに送り、ネパールやキューバなどからの傭兵(ようへい)、高い給料で募集した兵員を前線に投入。英BBCの調べでロシア軍の死者は確認できたもので7万8329人といい、実際はそれを上回っている可能性が高い。ついには北朝鮮に正規軍からの派兵を要請した。

交渉カードの一つに

米国は射程300㌔の長距離地対地ミサイル「ATACMS」をウクライナに供与しており、露朝のロシア領内からのウクライナ攻撃を阻むとみられるが、戦況にどのような影響をもたらすかは未知数だ。だが、2カ月後には米国でトランプ政権が発足し、トランプ氏とプーチン氏との交渉も注目される。少なくともバイデン政権が残す長距離ミサイル使用許可は交渉のカードの一つになるはずだ。

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