トップオピニオン社説中国無差別殺人 在留邦人の安全確保に万全を【社説】

中国無差別殺人 在留邦人の安全確保に万全を【社説】

中国南部・広東省珠海市で、男が自動車を暴走させて大勢の市民らをはね、35人が死亡、43人が負傷する事件が発生した。現地の日本大使館は在留邦人の安全確保に万全を期さなければならない。

車で大勢の市民はねる

男は小型のスポーツ用多目的車(SUV)を運転し、スポーツ施設敷地内の路上で運動していた大勢の市民らを次々とはねた。犯行後、車内で首などを刃物で切り付けて自殺を図り、病院で治療を受けている。離婚後の財産分与の結果に対する不満が犯行の引き金になったとみられているが、身勝手極まりない動機で凶悪事件を起こし、多くの無関係な人たちを死に追いやったことは断じて容認できない。

このところ中国では公共の場所での無差別襲撃が相次いでいる。上海市では9月、スーパーマーケットで男が刃物で客らを切り付け、3人が死亡し、15人が負傷した。男は金銭トラブルを抱えており、鬱憤(うっぷん)を晴らすために事件を起こしたと供述している。これらの事件の背景には、景気低迷による生活苦や閉塞(へいそく)感があるとの見方も出ている。

今回の事件を受け、北京の日本大使館は、外出の際は不審者や車、バイクの接近に気を付けるよう在留邦人に注意喚起。昼間でも日本語で大声で話すことを控え、日本人同士で騒ぐなどの行為を避けるよう呼び掛けている。邦人の一時帰国への支援なども進める必要がある。

深圳では9月、日本人学校に登校していた男子児童が、男に刃物で刺されて死亡する事件が起きた。中国では以前から愛国教育などの影響でSNSで反日的な言論が多く見られ、特に事件のあった18日は1931年に満州事変の発端となった柳条湖事件が発生した日であり、中国では反日機運が盛り上がりやすい背景があった。

事件について明確な説明を求める日本側に対し、中国側は「偶発的な事件」と述べ、男の動機などは明らかにしていない。詳しい説明は再発防止に不可欠であり、日本人の安全確保をおろそかにしていると言わざるを得ない。こうした人命軽視の風潮が、今度は多くの自国民が犠牲となる凶悪犯罪につながったのではないか。そうだとすれば、極めて深刻な問題だ。

習近平政権は国家の「安全」を最重視し、昨年7月にはスパイ摘発を強化する改正反スパイ法を施行するなど監視を徹底している。一方、景気低迷などで苦労する人たちの不満にはあまり向き合ってこなかった。今回のような形で安全が脅かされれば、社会が不安定化しかねない。

共産党独裁で対処可能か

中国では「一人っ子政策」の影響などから、少子高齢化にも歯止めがかからない状況となっている。世界最大だった人口も既にインドに抜かされた。一層の経済停滞などで国内で社会不安が増大した場合、硬直的な共産党一党独裁体制で十分に対処できるのか疑問だ。

国民の不満をそらすため、中国が台湾侵攻などの対外強硬策を取る可能性も否定できない。日本は米国との同盟における役割分担拡大に取り組み、地域の安定に寄与してきた日米安保体制の抑止力を高めるべきだ。

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