自民党の石破茂総裁が衆院本会議の首相指名選挙で30年ぶりの決選投票の結果、立憲民主党の野田佳彦代表を破り第103代首相に選出された。石破首相は第2次内閣を発足させたが、衆院選で惨敗し、過半数を持たない少数与党に転落したため、厳しい国会運営が予想される。
委員長ポストに懸念
米大統領選でトランプ前大統領が勝利するなど国際情勢が激変しており、内政で混乱し国会を空洞化させることは許されない。石破首相は政権維持を第一として何でも譲歩ありきの受け身の姿勢で臨むことは慎むべきだ。国益追求のため野党にも責任ある対応を求めたい。
石破首相は立憲民主党と国民民主党の各代表との会談を受け、「野党の皆様方のご意見を誠実に謙虚に承りながら、国民の皆様方に見える形であらゆることの決定をしていきたいと申し上げた」と語った。国会運営の協力を要請したものだ。
近く開催される臨時国会では与野党の駆け引きの激化が想定される。野党が一致して反対すれば予算案や法案は不成立になる。予算が成立しなければ政権は行き詰まり、内閣総辞職か衆院解散に追い込まれることになろう。「宙づり」国会にならないよう難しい舵(かじ)取りが求められるのは間違いない。
だが、「あらゆること」に対して石破イニシアチブの発揮を放棄して対処するという姿勢は問題だ。その兆候が衆院委員長ポストの配分にすでに表れているのが懸念される。
極めて異例なのが、予算委員会の委員長ポストを立民の安住淳氏に譲った人事だ。予算委は本予算や補正予算など政府予算に関する審議をするだけでなく、国政全般のテーマを扱う与野党の激戦場だ。その仕切り役を立民に明け渡したことで安定した国会運営となるか疑問だ。
議事進行に大きな権限を持ち自民党の定席だった憲法審査会長にも立民の枝野幸男元代表が就任する。枝野氏はかつて集団的自衛権行使・多国籍軍参加を容認する「改憲私案」を提示したことはあるが、憲法改正論議のキーマンとはなり得まい。最近では「緊急事態条項の新設」に反対し「自衛隊明記も不要」と主張している。
衆院選の結果、「改憲勢力」が改憲の国会発議に必要な3分の2を割り込んだ。さらに、審査会の開催すら消極的だった立民に会長ポストを譲ってしまった。石破首相は「来年の自民結党70周年を控え党是である憲法改正を前に進める」との公約を放棄したのか。
義務と責任の自覚を
法務委員長になる立民の西村智奈美氏は選択的夫婦別姓の推進者で、導入するための民法改正案の審議をリードする。自民内にも賛同者がいることから実現する可能性は大きくなる。だが、岸田前政権以来、離脱が続く自民支持の保守岩盤層をさらに切り崩すことにつながろう。
与党は萎縮せず、国会審議を充実させてほしい。一方、野党はパフォーマンスによる国民無視の政局化を謀ってはならない。政権奪取を本気で目指すのであれば、建設的な議論を徹底して行う義務と責任を負ったものと自覚すべきである。