政府が地方創生に本格的に取り組んで10年の歳月が流れた。その間、さまざまな施策が行われたが、地方衰退と東京一極集中の流れは変わっていない。よほど大胆な構想による実践なくして、地方創生は不可能だ。
東京圏への転入変わらず
政府は石破茂首相を本部長とする「新しい地方経済・生活環境創生本部」の初会合を開き、地方創生の基本的な考え方を今年中に取りまとめ、今後10年間で集中的に取り組む基本構想を策定することを決めた。
会合で首相は「地方の未来を創り、地方を守る。地方こそ成長の主役との考えに立ち、『地方創生2・0』を起動させることは内閣の最重要課題の一つ」と強調。同本部メンバーの全閣僚には「各地の現場をできるだけ訪れてほしい」と指示した。
地方創生は2014年、安倍政権時代に本格スタートし、首相は初代の担当相を務めた。東京圏の転入超過を解消するなどの目標を盛り込んだ総合戦略を策定。自治体向けの交付金や、企業の地方移転を促す税制を創設した。自治体も子育て支援策の充実などに力を入れ、移住の促進や産業振興を進めてきた。
しかし、東京圏の転入超過数は、コロナ禍で一時減少したものの、経済社会活動が回復すると再び増加。23年の超過数は14年の水準を上回った。若者が進学や就職を機に上京し、そのまま東京圏に定住するという構図が変わらず、とりわけ出産適齢期の女性の地方からの転出は、日本全体の出生率低下の大きな要因となっている。
「若者や女性に選ばれる地方創出」を首相が重視するのはそのためと思われる。施策の検討に際しては、ここに焦点を当てて議論を進めるべきだ。
会合では、地方の経済界、自治体、金融機関、労働団体、マスコミなどの関係者で構成する有識者会議を新設し、有効な施策の推進のための助言を得ることも発表された。活性化に成功した地域もあり、首相は「好事例の成功要因を分析し、どう普遍化していくかの方向性を見いだしていきたい」としている。
首相はまた、自治体への交付金1000億円を当初予算ベースで倍増する考えだ。予算の拡大はいいが、「ばらまき」や、東京に本社のあるコンサルタント企業を儲(もう)けさせるだけにならないよう注意が求められる。「これまでの10年間の成果と反省を生かさなくてはいけない」と強調するのであれば、今までとは次元の異なる大胆な構想が必要だ。そこまで踏み込まねば、地方衰退の流れを大きく変えることは不可能だろう。
大胆かつ繊細に推進を
必ずしも成功例とは言えないが、田中角栄元首相の「日本列島改造論」に匹敵するようなスケール感が必要だ。文化庁の京都移転にとどまった政府機関の地方移転をもう一度、本格的に検討し、デジタル化やリニア中央新幹線をそれに生かすべきである。地震などの災害に強い国造りのためにも、東京一極集中からの脱却は喫緊の課題だ。
地方創生には日本の未来が懸かっている。「地方消滅は日本消滅」と深刻に捉え、大胆かつ繊細な施策を推進しなければならない。