Homeオピニオン社説デブリ回収 本格的な取り出しにつなげよ【社説】

デブリ回収 本格的な取り出しにつなげよ【社説】

東京電力が福島第1原発事故で溶け落ちた2号機の核燃料(デブリ)の試験的取り出し作業を完了したと発表した。

2011年3月の事故後、格納容器内からデブリを回収したのは初めてで、廃炉に向けた工程は新たな段階に入った。今回の成果を本格的な取り出しにつなげたい。

詳しい状態や性質は不明

取り出し作業は9月に着手した。「テレスコ式」と呼ばれる釣りざお状の回収装置を遠隔操作で原子炉の格納容器内に投入し、爪のような器具を下ろして底にたまったデブリを採取。今月に入って回収装置ごと格納容器の外に移動させていた。

今回は採取した5㍉大のデブリの放射線量を測定。作業に問題がないことを確認した上で運搬用の専用容器に収納して一連の作業を終えた。作業は当初、21年に実施する計画だったが、海外での装置開発や準備作業などで約3年遅れた。今年8月の作業開始直前にはパイプの並び順にミスが発覚し、9月に着手した後もカメラの不具合で中断するなど難航を極めた。それでも成功したことで廃炉へ一歩前進したと言える。

ただ、前途は険しい。福島第1原発の1~3号機内には、事故で溶け落ちた燃料と原子炉内の構造物が混ざり合って固まったデブリが約880㌧あると推定されている。放射線量が極めて高く、詳しい状態や性質も分かっていないのが現状だ。

まずは取り出したデブリを茨城県にある日本原子力研究開発機構などの施設で分析し、本格的な取り出しの方法や使用する工具などについて検討する必要がある。政府と東電は廃炉工程の完了時期を51年までとしている。目標達成にはデブリを1日当たり約90㌔取り出さなければならず、現時点では難しい。

1986年4月に事故を起こしたウクライナのチェルノブイリ原発では、デブリの取り出しを先送りし、原発全体を鋼鉄製のカバーで覆っている。取り出しの方法を確立できれば、福島の復興だけでなく、原子力技術にも大きく貢献することになろう。具体的には、充填(じゅうてん)剤を流し込んでデブリを固めて取り出すなどの方法が検討されている。東電は今年度中にも新たにロボットアームを使った試験的取り出しを行う予定だ。知見を深め、技術や工具の開発などに生かしてほしい。

東電は昨年8月、福島第1原発の敷地内にたまった処理水の海洋放出を始めた。これも処理水を保管するタンクを解体し、デブリの取り出しや保管などをするための敷地を確保するためだった。ただデブリが残る限り、その冷却水を多核種除去設備(ALPS)で浄化した処理水は発生し続ける。

安全確保が大前提だ

中国は処理水放出に反対し、科学的根拠に基づかない日本産水産物の禁輸を行うなど「外交カード」として利用している。日本は中国に禁輸の全面撤廃を迫るとともに、デブリ取り出しに向けても着実に成果を挙げていく必要がある。

取り出し作業を進めるには、安全確保が大前提となる。地元住民に十分に説明し、理解を得ることが求められる。

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