北朝鮮が米大統領選挙前に新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星19」の発射実験を行い、改めて米全土を射程に収める能力を示した。中国、ロシアに加えて極東の核の脅威を高めており、米国の拡大抑止を受けるわが国および韓国は一層の連携強化に努め、対処しなければならない。
「最終完結版」と豪語
今月初め、「火星19」の試射を行ったことを報じた北朝鮮の朝鮮中央通信は、立ち会った金正恩朝鮮労働党総書記が「大満足」を示したと伝え、同ミサイルをICBMの「最終完結版」だと豪語した。ミサイルは高角度のロフテッド軌道で発射され、「戦略ミサイル能力の記録を更新した」といい、通常角度であれば飛行距離は1万5000㌔を超えると推計される。
米国で大統領選挙が大詰めを迎えたところで、改めて米本土全域を射程に収めるICBMの存在を誇示して次期米政権との対決姿勢を打ち出したと言えよう。「火星19」の試射で、正恩氏は「われわれの覇権的地位が不可逆であると世界に示すことになった」と訴えた。
正恩氏はトランプ前政権の下で核問題で米朝交渉のテーブルに着いた。両国正常化による「とてつもない経済発展」が米側のカードだった。北朝鮮の核開発に対して「完全で検証可能かつ不可逆的廃棄」(CVID)が焦点になったが、今やその逆方向を強調している。
北朝鮮はバイデン政権に代わると核・ミサイル開発を再開し、実験や試射を頻発するようになった。ロシアのウクライナ侵攻が起こると露朝が急接近した。北朝鮮はロシアへの弾薬800万発供与、兵士1万人以上のウクライナ派兵により“血盟関係”を構築しつつある。
また、ロシアからの石油、天然ガスをはじめとする経済協力、軍事技術協力は、核廃絶の対価として米国などから得るであろう大きな経済効果と比較にならないだろうが、北朝鮮にとっては体制維持が大前提の取引であることが重要だ。
北朝鮮は朝鮮戦争休戦後も、戦時下の国家統治を行い、軍事的な国威発揚と、国民を監視して引き締める以外に世襲的な独裁体制を維持できなくなっているようだ。韓国の親北的な前政権が「太陽政策」で接したが、迷惑とばかりに南北共同連絡事務所を爆破してみせた。今年、北朝鮮は韓国を敵国とする憲法改正を行い、南北関係を断絶した。最近では韓流文化の国内浸透に神経をとがらせている。
世襲独裁を貫く決意
米国の前政権下で行われた米朝交渉での経済カードも、民主主義国の経済力が国に入り込めば、国家統制に影響するとみたに違いない。正恩氏はスイスに留学し、自由の空気を知りながらも、祖父、父からの遺訓である核兵器開発を進め、世襲独裁の戦時体制を貫く決意が今回の「火星19」発射にも見て取れる。
ロシアが国連安全保障理事会常任理事国でありながら侵略国となり、北朝鮮の国連決議違反の核・ICBM実験を肯定する姿勢を取るようになった状況では、北朝鮮の脅威に対して米国と韓国、日本による抑止力向上に努めるほかはない。