米大統領選は予想通り大接戦となった結果、共和党のトランプ前大統領の勝利が確実になった。大統領選史上、132年ぶり2度目の大統領返り咲き(2期連続でない当選)となり、上院選でも多数派を奪還した結果と合わせ、4年間の民主党バイデン=ハリス政権にノーを突き付けたのである。
後手に回った民主党
民主党の敗因は、バイデン政権の内外政策に対する一貫性の欠如である。不法移民、不振を極める経済、ロシアによるウクライナ侵攻、中東情勢の悪化、歯止めのかからぬ中国の覇権拡大などに有効な手を下せぬまま推移した。
「ポスト冷戦」以降、各国が相対的に自国の権益を主張するようになり、世界はいっそう不安定要因を抱えることになった。米国が主導的にコントロールできる時代は過ぎただけに、各地で紛争や対立が顕在化してしまった。
問題はその後の対応、収拾力だ。米国が問われるのはそこである。その点、バイデン民主党政権はこの対応で後手が目立ち、無策とも言える状況を露呈したと言えよう。
一方、トランプ氏は「米国ファースト」を主張し、同盟国との連携に優先順位を置かない姿勢を見せた。しかし、事の本質は、現在国際社会の平和と安定に大きな影響力を持っているのは依然として米国だということだ。それ故、自らがそうした紛争処理能力を持った「強い米国」の復活が求められているのも明白である。
選挙戦を通じて浮き彫りになったのは、共和党=保守、民主党=リベラルといった“垣根”が崩れ、双方の支持層が流動化するという側面を見せたことだ。共和党内の穏健派や反トランプ勢力が“トランプ党”色に反発してハリス副大統領支持に動き、一方、民主党も伝統的支持層だった黒人、ヒスパニックの支持離れがその象徴的例と言える。トランプ氏の過激な言動もこれに拍車を掛けた形だが、それだけ米国民の伝統的価値観の液状化が進んでいると言わざるを得ない。
「米国の分断」が指摘されているように、トランスジェンダーや同性婚、妊娠中絶の権利問題などを巡る対立は先鋭化している。
トランプ氏の時に過激な言動は「地上に火を投ずるために来た」(新約ルカ伝)かのごとく、米国のあるべき建国の理念に立ち返るか否かを問うた形だ。トランプ氏の当選はその意味でも米国復活の将来を占う正念場となる。
しかし、「米国ファースト」といっても米国一国だけでできることは限られている。同盟国や同志国との連携を強化し、密にしてこそその強みは発揮されるのである。トランプ氏は同盟国の再結束を新たな次元に引き上げていく責務がある。
問われる日米同盟関係
日本としては、米国の核抑止を含めその同盟関係のあり方がさらに問われてこよう。
日米同盟を基軸としながらも、むしろそれを深化させるための日本がなすべき自立が求められる。憲法改正が急がれるゆえんだ。