宇宙航空研究開発機構(JAXA)がH3ロケット4号機を打ち上げ、搭載した防衛省のXバンド通信衛星「きらめき3号」の予定軌道への投入に成功した。H3はこれで3機連続の打ち上げ成功で、商業衛星打ち上げを目指す上でも「大きな一歩」である。今後も着実に成功を重ね、信頼と一段の性能向上に努めてもらいたい。
自衛隊の宇宙利用に弾み
JAXAの有田誠・H3プロジェクトマネジャーは打ち上げ後の記者会見で「連続成功で、安定した運用の段階に持って来られた。非常に大きな一歩だと考えている」と慎重な言い回しで語ったが、その通りである。
H3は間もなく運用を終えるH2A後継の基幹ロケット。昨年3月に1号機を打ち上げたが、新開発の液体燃料の第1エンジンは正常に動作したものの、H2Aで実績のある第2エンジンが着火しないという、まさかのトラブルに見舞われ失敗。搭載していた先進光学衛星「だいち3号」を失った。
その後、電気系統で過大電流を検知したのが原因であることを突き止め、絶縁の徹底などの対策を実施。今年2月の2号機、7月の3号機と連続で打ち上げに成功した。
もっとも、2号機では実用衛星ではなく、打ち上げ性能確認用のダミー衛星を搭載するという“屈辱”を味わい、その成功により、3号機では先進レーダー衛星「だいち4号」の搭載が認められたのである。
4号機の打ち上げは4度にわたり延期となり、当初予定から約半月遅れたが、短期間での連続打ち上げ成功は今後の運用に大いに希望を抱かせるものであり、関係者の努力を多としたい。
静止衛星のきらめき3号は、Xバンド通信で気象条件に左右されにくく、高速・大容量通信に優れ画像や動画をスムーズに送信できる。有事や災害時に広範囲に展開する艦艇や部隊間で迅速な情報共有が期待されるという。H3による静止衛星の打ち上げは初めてだ。
会見に同席した防衛省統合幕僚監部の加藤康博・指揮通信システム部長は「自衛隊の海外派遣や広域任務の態勢がさらに充実する」とし、防衛装備庁の菊田逸平事業監理官も「基幹通信として有効活用したい。今後予定する自衛隊の宇宙利用にも弾みとなる成功だ」と期待を示す。こちらも厳しくなる安全保障環境の中、国民の安全・安心の確保へ有効に活用してほしい。
月計画で重要な役割も
H3はJAXAと三菱重工業が開発を進めるロケット。第1段の新開発エンジンで打ち上げ性能を向上させる一方、部品の削減や民生品の積極採用などにより、打ち上げ価格を約100億円のH2Aから大幅削減し、固体ロケットブースターを装着しない軽量形態で約半額を目指している。
世界の衛星打ち上げ市場は、米スペースXの独壇場で、H3が見据える市場参入の前途は決して容易ではないが、米主導のアルテミス計画では月周回有人拠点への物資輸送など重要な役割も期待されている。「大きな一歩」から成功を重ねることで突破口を開く「確実な一歩」にしたい。