新興国グループ「BRICS」の首脳会議がロシアのカザンで開かれた。昨年8月の首脳会議では、エジプト、エチオピア、イラン、アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビア、アルゼンチン6カ国の新規加盟が発表された。今回は加盟国拡大後初の首脳会議で、議長国ロシアの発表では36カ国の代表が参加。ロシアの外交イベントとしては過去最大規模になったという。
「パートナー国」新設へ
ロシアは会議のテーマに「公平な世界の発展と安全保障に向けた多国間主義の強化」を掲げた。採択された「カザン宣言」では「制裁を含む一方的な強制措置が世界経済や国際貿易に及ぼす悪影響を深く懸念する」と明記し、欧米の対露経済制裁を批判。BRICS拡大に向け新たに「パートナー国」の枠組みを設ける方針も盛り込まれた。
ウクライナ南部クリミア半島の併合やウクライナ侵攻に踏み切ったロシアは、国際社会からの厳しい非難や経済制裁を受け苦しんでいる。このためロシアのプーチン大統領は、BRICS加盟国からの支持に加え、グローバルサウスと呼ばれる新興・途上国を積極的に取り込み、BRICSを欧米への対抗軸に発展させるとともに、ロシアは孤立しておらず、欧米ではなくロシアこそ世界の多数派に位置していると強調、喧伝(けんでん)しようと目論んでいる。
だが、BRICSを自国のための道具に利用しようとするプーチン氏の思惑は成功しているとは言い難い。新規加盟が発表されたアルゼンチンは、その後一転して不参加を表明。ロシアの発表とは異なり、サウジアラビアも未加盟を表明している。またプーチン氏は「パートナー国」の創設に関し、「30カ国が協力や加盟に関心を持っている」とアピールするが、具体的な国名は明らかにされていない。
グローバルサウスの国々にとって最大の関心事は自国経済の発展であり、イデオロギーや米露対立への加担ではない。BRICSが反欧米色を強めれば強めるほど、加盟に躊躇(ちゅうちょ)するグローバルサウスは増えるだろう。
ロシアと他の加盟国の思惑にもズレがある。インドやブラジルは加盟国拡大に慎重だ。プーチン氏は中露関係を「史上最高」と誇示するが、中国はブラジルと共にウクライナ戦争終結に向けた和平提案を行うなど、習近平国家主席は中国がロシアの戦争に加担しているとの印象を拭うことに必死だ。中国は露朝の接近も強く警戒している。
インドのモディ首相はプーチン氏との会談で、対話による紛争解決を強調。その後、会議途中で帰国し、経済関係強化の目的で訪印したドイツのショルツ首相との首脳会談を優先させた。かようにBRICSは関係各国の同床異夢の枠組みに留まっており、米国主導の国際秩序を揺るがすだけの力は持ち合わせていない。
中露の分断図る外交を
日本はプーチン氏流のプロパガンダに臆せず、得意の開発援助政策を軸に、引き続きグローバルサウスの経済発展に尽力するとともに、中露印の立場の違いを巧みに突く外交を展開し、インドを西側に引き寄せ、また中露の分断を図るべきである。