わが国を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、衆院選では憲法改正も重要なテーマだ。改憲を党是とする自民党は、公約で9条への自衛隊明記を掲げている。選挙戦で憲法への注目度は高くないが、改憲を結党の原点とする自民が主導し、論議を深めていく必要がある。
公約で「自衛隊明記」
9条への自衛隊明記は、自民が2018年3月にまとめた改憲4項目の一つだ。安倍晋三首相(当時)の「違憲論争に終止符を打つ」との強い決意の下で打ち出された。具体的には、現行条文を維持したまま「9条の2」を新設して「自衛隊を保持する」との文言を追加するというものだ。
こうした案を掲げたのは、連立を組む公明党の「加憲」方針に配慮した面もあったと言えよう。今年9月の自民党憲法改正実現本部の会合でも、各党と改憲案の条文化作業に入る上で「前提とすべきだ」とされた。ただ、これでは戦力不保持を定めた9条2項との矛盾が解消されず、自衛隊の憲法上の位置付けが不明確だ。
自民が野党時代の12年4月に発表し、石破茂首相も当時、起草に携わった憲法改正草案では、現行の2項を削除した新たな条文を盛り込んでいる。自衛隊違憲論を一掃するには、この方が望ましいと言えよう。
覇権主義的な動きを強める中国や、核・ミサイル開発を進め、ロシアとの軍事協力を強化する北朝鮮の脅威が高まる中、今回の選挙戦で憲法を巡る議論が低調なのは残念だ。憲法についての訴えは、安保だけでなく、各党が目指す日本の在り方を明示することにもなろう。
立憲民主党の野田佳彦代表は「政権交代こそ最大の政治改革」として、自民の政治資金不記載問題への批判を強めている。野党が与党の「政治とカネ」の問題を追及するのは当然のことだが、もっと骨太の議論も求められる。政権交代も政治改革も目的ではなく手段にすぎない。大切なのは、党の国家ビジョンを明確にし、これを実現するための政権担当能力を有権者に示すことだ。
立民は、衆院選公約で憲法9条について「現行の9条を残した上で自衛隊を明記する自民案は、フルスペックの集団的自衛権まで行使可能となりかねず反対」としている。改憲に消極的とも取れる姿勢は、政権の座を狙う野党第1党としていかがなものか。
いかに国民を守るのか
中国の習近平政権は台湾統一に向けて武力行使も辞さない構えだ。北朝鮮も韓国への敵対姿勢を強めている。こうした情勢を踏まえれば、地域の安定に寄与してきた日米安保体制における日本の役割拡大も重要な政治課題だと言えよう。現行の9条で対応できるのか疑問が残る。
憲法を巡っては9条改正のほか、戦争やテロ、大規模災害、感染症流行などに対処するための緊急事態条項創設についても議論されてきた。
各党の賛否は分かれるが、間もなく衆院選投票日を迎える中、国民生活に重大な影響を及ぼす事態が生じた際に、いかに国民の生命・安全を守るかを活発に議論しなければならない。