首都圏で相次ぎ発生した強盗事件で、警視庁と埼玉、千葉、神奈川各県警が合同捜査本部を設置した。治安を悪化させ、住民の不安を増大させている事態を、これ以上深刻化させるわけにはいかない。警察は犯罪グループの指示系統を解明し、根こそぎ摘発しなければならない。
トクリュウが関与か
4都県では8月末以降、10件以上の強盗事件が起きている。窓ガラスを割るなどして住宅に押し入り、住人を縛って鈍器で殴るなどの凶行が続いている。犯罪グループに連れ去られ、監禁された被害者もいる。
15日には横浜市青葉区で殺人事件が発生。被害者の75歳男性は、手足を縛られた状態で発見された。遺体には広範囲に暴行された痕跡と出血があり、現金や貴金属が盗まれていた。卑劣かつ残忍な犯行だ。これ以上被害者を増やすことがあってはならない。
一連の事件は、SNSで集散し互いに面識がない匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)の関与が疑われている。実行役らは秘匿性の高い通信アプリ「シグナル」で「夏目漱石」などを名乗るアカウントから指示を受けていた。
4都県警はこれまでに実行役ら約30人を逮捕した。しかし、指示役からのメッセージの多くは消去されていた。シグナルでは消去された情報の復元は困難だが、「デジタルフォレンジック」(電子鑑識)などを行う警視庁の捜査支援分析センターが復元に取り組んでいる。指示役の特定や摘発につながる成果を期待したい。
逮捕された実行役らの多くは「闇バイトに応募した」と供述しているが、個人情報を握られ、脅されるケースが多い。青葉区の事件で逮捕された容疑者は、闇バイトと知らずにSNSで応募。「途中で犯罪に加担することに気付いたが、家族に危害が加えられるかもしれないと考え、断れなかった」と話している。
高額報酬に引かれて応募しても、結局は報酬を受け取れず、捨て駒にされるのが実態だ。警察は闇バイトに応募しないよう周知徹底するとともに、脅されている人やその家族を保護するための相談体制を整備する必要がある。
一連の事件では、悪質なリフォーム業者の存在が浮上している。東京都国分寺市で被害に遭った住宅の場合、業者が昨年、飛び込みで訪問。住民の60代女性は、屋根の修理で約800万円を支払ったという。部屋の構造や資産状況などの情報が漏洩(ろうえい)し、事件で悪用された可能性がある。見知らぬ人が自宅に来た時は、むやみに家に上げないことが身を守ることにつながる。
警察は国民の不安払拭を
トクリュウによる強盗事件では、昨年1月に東京都狛江市で90歳女性が殺害された事件が記憶に新しい。「ルフィ」などと名乗るグループが指示役とされ、フィリピンから強制送還された特殊詐欺グループのリーダー格らが逮捕された。この時も闇バイトの募集に応じた実行役が多くの事件を起こした。
警察は国民の間に広がる不安を払拭するため、取り締まりを強化してトクリュウの壊滅に全力を挙げるべきだ。