2024年のノーベル平和賞が、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)に授与されることに決まった。
68年にわたり核兵器の廃絶を世界に訴え、被爆者援護の活動を続けてきたその努力が、核の脅威が高まる中で評価された意義は大きい。
日本周辺で高まる脅威
日本人の平和賞は、非核三原則の提唱によって1974年に受賞した故佐藤栄作元首相以来50年ぶり。日本被団協は米国の水爆実験による第五福竜丸被曝を契機に56年に結成され、各国に代表団を派遣して被爆(ひばく)体験を伝えてきた。
ノルウェー・ノーベル賞委員会は、日本被団協への授賞理由を「核兵器のない世界を実現するための努力と、核兵器が二度と使用されてはならないことを証言を通じて示してきた」としている。また「核兵器の使用は道徳的に容認できないという『核のタブー』の確立に大きく貢献した」と評価した。
さらに「大きな犠牲を払った経験を平和への希望と関与を育むために役立てることを選択したすべての被爆者をたたえたい」とも述べている。
しかし日本被団協をはじめとした核廃絶の努力をよそに、世界の核兵器を巡る現状、とりわけ核使用のリスクは高まっている。ウクライナ侵攻に際し、ロシアのプーチン大統領は「ロシアは核保有国の一つだ。最新鋭兵器もある。われわれに攻撃を加えれば不幸な結果になる」などと述べ、核攻撃をちらつかせる「核の恫喝(どうかつ)」を続けている。ベラルーシと共同して戦術核の使用を想定した軍事演習も繰り返している。
同様の危機は中東でも高まっている。イスラエルの閣僚の中からはイスラム組織ハマスへの核攻撃を選択肢とするとの発言も出ている。日本被団協への授賞は、このような現状への強い警告と言える。
核廃絶実現のためには、タブーが破られないように核を使用させないための努力と現実的な施策が求められる。
2017年に国連で採択された核兵器禁止条約(核禁条約)に、日本は「核兵器を保有する国々が参加しておらず、日本だけが加わっても、核廃絶にはつながらない」として参加していない。これは核を巡る世界の現状からは当然の態度である。このことと核廃絶を訴えることは矛盾しない。
米国との共有検討を
日本周辺での核の脅威は一段と高まっている。現在500発の核弾頭を保有する中国が急速な核軍拡を続け、30年には1000発に達するとの見方も出ている。北朝鮮は国連安全保障理事会決議を無視し、核弾頭搭載に向けて弾道ミサイルの発射を繰り返している。
核攻撃をさせないためには核抑止力が必要だ。ウクライナがロシアの侵攻を受けたのは、冷戦終結後に核兵器を放棄したからとの見方もある。
高まる核の脅威の中で、日本は、保有国に誤った判断をさせないためにも、米国との核共有を検討すべきである。核兵器なき世界を実現するために、まず使用させない態勢を固める必要がある。