中国は台湾を囲む形で陸、海、空軍による大規模な合同軍事演習を行い、空母「遼寧」などの艦隊や爆撃機、戦略ミサイルを運用するロケット軍などが参加、軍用機も台湾国防部による1日の確認数としては過去最多の延べ153機が加わった。台湾を包囲して封鎖する陣容を示す威圧的な軍事演習が有事とならない保証はなく、国際社会は万一に備え結束した対中制裁を行う確認をすべきだ。
頼総統の演説に反発
台湾の建国記念日に当たる10日の双十節記念式典で頼清徳総統は「中華人民共和国に台湾を代表する権利はない」「台湾と中国は互いに隷属しない」などと演説の中で述べた。また頼氏は5日にも、中華民国が建国113年であり、建国75年の中国より歴史が長いことを指摘し、「中国は絶対に台湾の祖国になり得ない」と強調している。
これに中国は反発し、14日の大規模軍事演習に踏み切った。習近平国家主席が中国の建国記念日の国慶節に際して「台湾は中国の神聖な領土だ」と述べて台湾統一への決意を重ねて表明しており、「一つの中国」原則を譲ることができない中国にとって、頼氏の主張は見過ごせなかったと言える。
今回の中国の大規模な合同軍事演習は、台湾の重要港と重要エリアの封鎖を目標として、台北、基隆、花蓮、台東、高雄、台中など6都市の沖合で行われており、いつでも実戦に移し得るものだった。台湾海峡を挟んだ大陸側からのミサイル発射だけでなく、空母の艦載機による台湾の東側や南側からの攻撃の可能性もあり、軍事的な威圧は大きい。
また中国海警局の船が台湾を囲む形で巡視活動を行い、貨物船などへの臨検を示唆する圧力を加えている。
演習名は「連合利剣―2024B」とされており、頼氏が総統に就任した5月に行われた前回の演習は「連合利剣―2024A」と同名で末尾がAだったことから、次は末尾をCとして行われる観測もある。Aは就任演説で頼氏が台湾を「国家」と繰り返し述べた後に始まった演習であり、台湾封鎖訓練、攻撃訓練を具体的に行っている。
既に中国は「台湾統一」の意志を表明しており、軍事演習で一定の能力を示している。これが現実になるか否かは習氏次第だが、国際社会はロシアのウクライナ軍事侵攻に対して実施した強力な制裁と同等の制裁を、中国にも科することを考慮する必要があろう。
ロシアはウクライナのゼレンスキー大統領をネオナチ呼ばわりし、ウクライナはロシアと同じ民族でありながらロシアを離れて西側に付く「分離主義」だと非難した。国境線に軍を「演習」として動員し、プーチン大統領はウクライナに対して「特別軍事作戦」に踏み切った。
一線越えさせぬ牽制力を
同様に「一つの中国」を振りかざす中国に対し、「中国は台湾の祖国になり得ない」などと反発する頼氏について、中国は「独立派」「分離主義者」と息巻いている。この応酬を中国が一線を越える口実にすることがないよう、国際的な牽制(けんせい)力を備えるべきだ。