Homeオピニオン社説【社説】強制不妊補償法 社会全体で優生思想と決別を

【社説】強制不妊補償法 社会全体で優生思想と決別を

旧優生保護法に基づき不妊手術を強制された被害者らへの補償法が成立した。前文には「国会および政府」を主体とする謝罪が明記され、衆参両院でも被害者への謝罪決議が議決された。

同法は来年1月に施行され、手術を受けた本人や配偶者らに補償金が支払われることになる。ただ、制度が整っただけでは完全な解決とは言えない。旧法成立の背景にあった優生思想との決別へ向けた不断の努力が必要だ。

2万件超える不妊手術

旧優生保護法は1948年に制定され、特定の障害や精神疾患などを理由に本人の同意なしで不妊手術や中絶を行うことを認めた。96年に優生条項が撤廃され母体保護法として改正されるまでの約50年間で、少なくとも2万5000件の不妊手術が行われ、そのうち1万6000人以上が手術を強制されたとされる。

旧優生保護法を巡っては、2019年に被害者本人に320万円の一時金を支給する救済法が成立したが、認定数は今年8月末時点で1129件にとどまっている。新法の下では、被害者をより多く救済できるかが最大の課題になる。

当事者の中には差別や偏見を恐れて被害を申告できない人も多い。プライバシー保護などの観点もあって、被害者へ個別通知を行うかの判断は各都道府県に委ねられているため、5年後の請求期限までにどれほど制度が周知されるかは見通せない。個別通知については国が何らかの基準を示すべきであり、同時に偏見を払拭するための取り組みも必要不可欠だ。

同様の被害・加害を繰り返さないためには、社会全体がこれまで以上に生命倫理と正面から向き合う必要がある。日本産科婦人科学会など医学系の136学会が加盟する日本医学会連合は20年、強制不妊手術と医学・医療界との関わりについて報告書をまとめ、被害者らへ「心からのお詫び」が必要との認識を示した。同時に、出生前診断やゲノム編集を含む遺伝子治療などの分野の医療が非倫理的な方向へ進まないよう「生命倫理・医療倫理教育の推進が求められる」とした。

旧法では「不良な子孫の出生を防止」するという「公益上の目的」のため優生条項が設けられた。生まれてきた方がいい命と生まれてこない方がいい命を社会や第三者が選別する思想であり、非常に危険な考えだ。命の選別が肯定されれば、今同じ状況で生きている人への差別・偏見にもつながりかねない。

生命倫理の議論避けるな

生命倫理に関しては、ゲノム編集技術を使って受精卵などの遺伝情報を書き換え子供を誕生させるいわゆる「ゲノム編集ベビー」について、中国の研究者が18年に双子の女児を誕生させたと報告し世界に衝撃を与えた。現在は中国のほか英国やドイツ、フランスが、こうした子供を出生させることを法律で禁止し罰則を設けている。

しかし、日本では文部科学省と厚生労働省による倫理指針があるだけで法律は未整備だ。安全性の面なども鑑み法規制を目指す動きがあるが、倫理的な議論も避けてはいけない。

spot_img
Google Translate »