トップオピニオン社説【社説】ASEAN会議/首相は具体的な外交構想示せ

【社説】ASEAN会議/首相は具体的な外交構想示せ

石破茂首相がラオスの首都ビエンチャンで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の首脳会議に出席し、首相就任後初の外遊で国際デビューを果たした。

日ASEAN首脳会議やASEAN各国と日米中などの代表が地域の安全保障問題などを話し合う東アジアサミット(EAS)に参加したほか、中韓豪印、ラオス、ベトナムなど8カ国首脳と個別に会談した。

持論封印し安全運転

日ASEAN首脳会議で石破首相は、ASEANとの信頼関係をさらに強固なものとする決意を表明した。また中国を念頭に東・南シナ海での覇権主義的行動を批判し、ASEANと海洋安全保障で連携を進めると強調。北朝鮮の完全非核化や拉致問題解決での協力も訴えた。

EASでは南シナ海などでの中国の行動に関し米中が激しく応酬した。石破首相は「国連海洋法条約に基づかない不当な海洋権益の主張や海洋活動は認められない」として法の支配を支持する考えを示し、「深刻な懸念」を改めて表明。台湾海峡の平和と安定の重要性も強調した。

米国はインド太平洋地域重視を掲げながらバイデン大統領が2年連続してASEANの会合を欠席し、ASEAN諸国の米国への信頼性低下が懸念される。一方、中国は経済協力を梃子(てこ)にこの地域の発展に不可欠なパートナーとして存在感を増しており、東南アジアの平和と安定の確保に向けて日本の強いリーダーシップが求められている。

初の中国との首脳会談では、笑顔を見せる李強首相に対し石破首相は厳しい表情で臨んだ。あらゆるレベルで意思疎通を重ねることを確認したが、石破首相は中国軍機の領空侵犯に「深刻な懸念」を伝えた。また中国の深●で日本人男児が刺殺された事件の事実解明と説明、中国に住む日本人の安心・安全の確保を求めた。韓国の尹錫悦大統領との会談では、来年の国交正常化60年を見据え、「シャトル外交」も活用しつつ緊密に連携していく考えで一致した。

自民党総裁に選出されて以降、石破首相は持論を封印し、主要な政策は岸田政権の路線を継承すると突然方針を転換。一連の首脳会議でもアジア版NATO(北大西洋条約機構)創設などには一切言及せず、岸田政権の立場をなぞるような発言に終始し、安全運転に徹した。

アジア版NATOについては、米中対立に巻き込まれる懸念からASEAN諸国は否定的だ。今回石破カラーを出さずそうした不安を鎮静化させ、首脳間の信頼関係を築くことにひとまず成功したと言える。半面、石破新政権としての新鮮味やアピールに欠けるものとなり、日中首脳会談でも日本の求めに対し中国は従来の立場を繰り返し、成果は得られなかった。

国際情勢激動の事態も

来月に迫る米大統領選挙の結果次第では、国際情勢が激しく揺れ動く事態も考えられる。そのような厳しい国際環境の中、岸田路線の継承というだけで石破外交の輪郭は曖昧なままだ。日本外交をどのように舵(かじ)取りするのか、現実的かつ具体的なビジョンを石破首相は早急に明確化させる必要がある。

●=土へんに川

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