高額献金などが問題とされる世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対し、文部科学省が東京地裁に解散命令請求を行って明日で1年となる。民主主義の根幹にある信教の自由に関わる重大問題だ。司法の慎重な判断が望まれる。
一夜で法令解釈変更
文科省は、家庭連合は長期にわたって献金を巡る被害の訴えや民法上の不法行為があり、著しく公共の福祉を害したとして解散命令を請求した。これに対し教団側は、「当法人を潰(つぶ)すことを目的に設立された左翼系弁護士団体による偏った情報に基づいて、日本政府がこのような重大な決断を下したことは痛恨の極み」と批判した。
法令違反などで宗教団体が解散を命じられたケースは、地下鉄サリン事件などのテロ事件を起こしたオウム真理教、霊視商法詐欺事件で幹部が有罪となった明覚寺の2例のみだ。しかし、家庭連合は刑事事件で幹部が有罪となっていない。岸田文雄首相(当時)も当初、民事上の法令違反は解散事由に含まないと国会で答弁していた。それが一夜にして解釈を変更した。
岸田氏は家庭連合と自民党政治家との繋(つな)がりがやり玉に挙がるや、事実関係を検証する前に早々と教団との「関係断絶」を宣言した。メディアの魔女狩り報道の中、岸田氏の自己中心的なその場しのぎの政治的判断は重大な法律の解釈にまで及んだ。
家庭連合の信者は日本国民として法令に則(のっと)り普通に社会生活を営んでいる。そのような信徒から成る宗教法人を解散に追い込むことには、信者以外でも違和感を覚える人は少なくない。
何より、時の政権が特定の宗教団体をターゲットにして解散に追い込む悪(あ)しき前例となることが憂慮される。メディアや世間への配慮から多くは伝わってこないが、伝統宗教、新興宗教を問わず、宗教団体にはそのような深刻な危惧が底流している。
信教の自由は戦後日本の繁栄を底辺で支えてきた。侵害することは日本の精神的、社会的土台を揺るがすことになる。そのことへの認識が問われている。
侵害に対しては、信教の自由を巡って歴史的に大きな犠牲を払ってきた欧米諸国の知識人や宗教者の方が敏感だ。信教の自由擁護に取り組む12の国際人権団体の代表者は、日本政府が解散命令請求を行ったことに対し共同声明で「日本の当局と裁判所に対し、信教・思想の自由を含む民主主義の原則にコミットした国としての日本のイメージを永遠に汚すような措置を進めないよう強く求める」と訴えた。
この問題は、家庭連合への恨みを晴らそうと山上徹也被告が安倍晋三元首相を殺害した事件に始まる。その後の日本社会と政府の動きは、まさにテロリストの意図通りの展開となっていることを忘れるべきでない。
宗教差別は許されない
宗教法人が解散しても、個々の信徒の信教の自由は守られるという意見もある。しかし解散を命じられれば、宗教儀式を行う教団所有の施設などを失い、すでに報告されている信徒個人への偏見や人権侵害もさらに激しいものとなる可能性は少なくない。日本を宗教差別を許す国にしてはならない。