トップオピニオン社説【社説】習氏建国演説 台湾統一より現状の平和守れ

【社説】習氏建国演説 台湾統一より現状の平和守れ

中国の建国記念日に当たる10月1日の国慶節を前に習近平国家主席が建国75年記念行事で演説し、「台湾は中国の神聖な領土だ」と述べて台湾統一への決意を改めて表明した。これに対し、台湾の建国記念日に当たる10日の双十節の式典で頼清徳総統は「中国には台湾を代表する権利はない」と突っぱねた。台湾は民主主義政体を自ら確立して繁栄している。現状を維持して平和を守るべきだ。

 空回りする「歴史の歯車」

頼氏は「台湾と中国は互いに隷属しない」とも強調した。習氏が国慶節演説で「両岸は血でつながっている。血は水より濃い」と述べ、「祖国の完全統一実現は国内外の中国人共通の願いで、歴史の歯車は誰にも止められない」と主張したことを否定した形だ。

習氏には、広い国土と世界2位の人口、経済力を持つ大国としての余裕も感じさせるが、その国力が求心力とならず周辺国の警戒を呼び、富裕層をはじめとする国民の海外移住が増加の一途をたどっている。むしろ、習氏が言及する歴史の歯車は空回りを続けていると言えよう。

理由は建国以来、共産党一党独裁の国家体制だからだ。日本の敗戦後、中国共産党と国民党との国共内戦となり、大陸に共産党の中華人民共和国、台湾に中華民国が併存した。「一つの中国」は双方の主張でもあったが、中国は台湾を認めない原則外交を優位に進めている。

しかし、台湾には国共内戦以前から住んでいた「本省人」がおり、50年も日本統治下で暮らしていた。戦後、対日関係を重視する台湾人らから独立を主張する台独派の運動も現れた。

独立を求める政治運動は、1970年代に国連で「中国の代表権」が中華人民共和国に認められ、中華民国が国連から追放されたことにより活発化。その後、国民党と袂(たもと)を分かった民進党に影響を与えた。頼氏は総統就任演説で「国家」という言葉を35回も使い、事実上の独立国との認識をにじませたが、これに中国は台湾を威嚇する軍事演習で応じている。

1996年の総統選でも中国は台湾海峡にミサイルを発射するなどして威嚇した。99年に民進党は中国を刺激することを避けて「独立」を封印したが、中国は軍拡に走り、台湾有事が懸念されるようになった。

習氏は、一昨年の共産党大会でも台湾統一に関して「武力行使を決して放棄しない」と強調しており、同年の米下院議長の訪台に際しても台湾周辺での軍事行動を強め、ミサイルを発射するなど緊迫化した。

 中国は共存を目指せ

中国の主張する「台湾統一」は力による現状変更であり、台湾市民は強く拒絶している。中国共産党の暴力的な民衆弾圧は枚挙にいとまがない。民主化を求める民衆に人民解放軍が発砲し数多くの死傷者を出した天安門事件、香港での「国家安全維持法」による民主派弾圧。少数民族への弾圧も過酷であり、特にウイグル人に対して欧米では「民族虐待」と認識されている。

中国は武力行使を辞さないという無理な「台湾統一」よりも、台湾の現状維持を認め、共存を目指すべきである。

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »