議院が解散され、15日公示、27日投開票の日程で行われる総選挙に向け与野党は事実上の選挙戦に突入した。
石破茂首相(自民党総裁)は国民から初の審判を受けるが、「政治とカネ」の問題で厳しい逆風を受けている。自民が単独で過半数(233議席以上)を獲得し信任されるかが焦点だ。できなければ石破首相の責任問題に発展しよう。
旧安倍派に二重処分
石破首相は、首相就任からわずか8日後、戦後最短で解散を断行した。予算委員会を開いて与野党が十分に論戦をしてから解散し信を問うというのがかねての持論だったが、短期決戦に挑むことになった。
その背景には、首相就任という「ご祝儀相場」がしばらく続き、野党共闘の構築が進まないうちに選挙戦に持ち込む方が有利になるとの判断があったのだろう。「政治とカネ」の問題に多くの審議時間を割かれている状況を打破するため、早く禊(みそ)ぎを済ませたいとの思いが強かったに違いない。
だが、自民は選挙戦前から挙党態勢を構築できないでいる。石破首相が一部メディアや世論に迎合して政治資金収支報告書不記載問題で方針を突然変え、旧安倍派を狙い撃ちにした新たな処分を科したのである。党員資格停止処分などを受けた12人を非公認、それ以外の不記載議員で公認した場合でも比例代表との重複立候補を認めないというものだ。
比例代表で当選してきた自民議員の中には出馬を取りやめる議員も出てきた。公認申請を済ませた地方には、憤りを隠さない支部もある。不記載問題を巡る党の処分はすでに下されており、二重処分ではないかとの声は大きい。総裁選でのしこりも残っている上、首相は戦う態勢を自ら壊し党内対立を再燃させたのである。
衆院選は政権選択選挙である。本来であれば、野党第1党の立憲民主党と外交・安全保障、経済、少子化政策などを競い、どちらが政権に就くのが相応(ふさわ)しいかを問わねばならない。ところが、党首討論で野田佳彦代表がテーマにしたのは、「政治とカネ」の問題であり、「政治改革は政権交代をしなければ実現できない」と言い切った。受けて立った石破首相も釈明に追われるだけで、国家の大計を逆質問して自らの土俵に引き込む余裕はなかった。
衆参両院での所信表明演説に対する代表質問でも、立民は安全保障面で大きな脅威となっている中国に対する認識に触れず、国防政策も語らなかった。日本の独立と繁栄を保障するためには、安全保障や憲法などに関する見解を国民に分かりやすく示す必要がある。それもなく「政治とカネ」の“敵失”を攻め立てて政権交代を迫っても説得力に欠ける。
有事の緊張感堅持を
衆議院が解散されたことで衆議院議員全員が議員としての地位を失った。
日本列島は選挙一色となろう。重要な政策論争を深めるとともに、領空・領海侵犯といった他国による主権侵害や国家有事への備えをし緊張感を堅持することも忘れてはならない。