トップオピニオン社説【社説】初の所信表明 石破カラー薄め持論を外す

【社説】初の所信表明 石破カラー薄め持論を外す

石破茂首相が初の所信表明演説を行った。「ルールを守る」「日本を守る」「国民を守る」「地方を守る」「若者・女性の機会を守る」の五つの観点から自らの政策について語ったが、総裁選の時と比べ石破カラーを薄め、外交・安全保障などでは持論を外し無難な内容にとどめた印象だ。

甘過ぎる対中認識

石破首相は現下の安全保障環境について「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」とし、外交力と防衛力の両輪をバランスよく強化することを訴えた。アジア版NATO(北大西洋条約機構)の創設という独自の安保政策を掲げてきた首相だが、周囲の批判も多く、演説には含めなかった。

安倍晋三首相(当時)が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンについて「法の支配に基づく国際秩序を堅持し、地域の安全と安定を一層確保するための取り組みを主導していく」との決意を表明したことは評価できる。一方で、これが中国を念頭に置いた構想であるにもかかわらず、中国とは「戦略的互恵関係」を包括的に推進し、「建設的かつ安定的な関係」を構築するというが、可能なのか。

中国による東シナ海や南シナ海での力による一方的な現状変更の試みに対してこれまでの政権のように「遺憾だ」などと繰り返しているだけでは駄目だ。中国は領空・領海侵犯を繰り返し対日国内工作を強め国家主権を脅かしているのである。「日中韓の枠組みも前進させる」と語ったが、対中認識が甘過ぎないか。対中露政策について、米国とこれまで以上に緊密な連携が求められる。

「政権の最重要課題」と位置付けた北朝鮮による邦人拉致問題解決に向けても、東京と平壌に連絡事務所の開設を検討するという自らの考えを語らず、「私自身の強い決意の下で、総力を挙げて取り組む」と抽象的な表現にとどめた。拉致被害者家族会は北朝鮮に利用されかねないとしてこの考えに消極的だ。家族会と直接会って理解を深める努力を惜しんではならない。

日米地位協定の改定にも言及せず、増税など痛みの伴う政策も影を潜めた。憲法改正も与野党の枠を超えた「建設的な議論」を行うことに期待すると語った程度だ。

懸念されるのは、皇位の安定的継承に言及した最後の箇所である。石破首相は「早期に『立法府の総意』が取りまとめられるよう積極的な議論が行われることを期待する」と語ったが、取りまとめ自体が最優先であってはならない。男系継承という皇統の基本原理が守られることにおいて、一点の妥協もあってはならないからだ。

真っ向からの論戦を

一方で、初代の地方創生担当相だっただけに、地方への政策で「石破らしさ」を示した。地方創生交付金を当初予算ベースで倍増させ、「新しい地方経済・生活環境創生本部」を創設し、今後10年間集中的な取り組みを行う構想には期待する。

来週、野党の代表質問で政策論戦を真っ向から行い、「納得と共感の政治」の実現に尽力してもらいたい。

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »