Homeオピニオン社説【社説】9月日銀短観 追加利上げは急がず慎重に

【社説】9月日銀短観 追加利上げは急がず慎重に

日銀が発表した9月の全国企業短期経済観測調査(短観)では、大企業の景況感が前回6月調査から総じてほぼ横ばいとなったが、高水準で維持された。

原材料費や賃金の上昇を価格転嫁する動きが進んでいるためだが、消費者は依然節約志向が強く、消費に力強さが戻らない。来年も高水準の賃上げが不可欠である。追加利上げにはもう少し時間が必要で、日銀には急がず慎重な対応を望みたい。

人手不足が懸念材料

企業の景況感を示す業況判断指数(DI=業況が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」を引いて算出)は、大企業製造業でプラス13と、前回調査から横ばい。大企業非製造業ではプラス34(前回プラス33)で、2四半期ぶりに改善した。

大企業製造業では半導体市況の回復などが景況感を支えたが、中国を中心とした海外需要の伸び悩み、認証不正問題から回復途上にあった自動車の台風による工場稼働停止などで振るわず、全体として改善は足踏み状態。大企業非製造業では、インバウンド(訪日客)需要が引き続き堅調だったほか、猛暑によって夏物衣料の売れ行きが好調で、台風や地震などの災害に備えた商品購入も活発だった。先行きについては、大企業製造業がプラス14とわずかながら改善を見込み、大企業非製造業はプラス28と6ポイント悪化を見通す。

懸念材料となっているのは、人手不足である。企業の人手不足感は前回調査より強まっており、特に中小企業非製造業は雇用人員判断DIがマイナス47と過去最低で、7割強の企業が人手不足に悩み、先行きも人員確保への懸念が強い。非製造業で景況感の改善が小幅にとどまっている(中小企業は2ポイント改善)のも、人手不足に伴う人件費上昇もあって企業心理の改善が限定的だからで、先行きにも影響を及ぼしている。

もっとも、悪い面ばかりではない。7月以降の歴史的円安水準の修正で、物価高の大きな要因だった円安による輸入インフレが収まり、原材料価格が低下している点だ。

円相場は現在1㌦=145円前後で、企業の想定為替レート(145円15銭)とほぼ同じ水準である。2024年度の大企業全産業の設備投資計画も前年度比10・6%増と大きく、人手不足への対処としても心強い。

大企業の景況感が総じて高水準を維持しているのは、価格転嫁が進み、収益環境が改善しているためでもある。日銀が目指す「賃金と物価の好循環」実現には、来年の春闘でも大幅な賃上げが欠かせない。

そのためには大企業が賃上げをリードするだけでなく、出遅れている中小企業の価格転嫁により協力し、政府も制度面で後押しすることである。日銀としては、植田和男総裁が石破茂新首相との会談で伝えたように、追加利上げは急がず慎重に対応すべきである。

景気に水差す増税は禁物

日本経済は今、長年のデフレ経済から脱却目前だが、国内総生産(GDP)の半分以上を占める個人消費に力強さが欠けている。景気に水を差し、これまでの努力を無にする増税は禁物である。

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