トップオピニオン社説【社説】露核ドクトリン 侵略やめれば改定は必要ない

【社説】露核ドクトリン 侵略やめれば改定は必要ない

ロシアは最高意思決定機関の国家安全保障会議を開き、プーチン大統領が発表した核ドクトリン(核抑止力の国家政策指針)の改定を決定した。ウクライナに武器を供与する欧米諸国への核攻撃を示唆するものだが、そもそもロシアの侵略に非があり必要のない改定である。

ウクライナ軍が越境攻撃

非核保有国でも核保有国から支援を受けてロシアおよび同盟国を攻撃した場合、両国家の共同攻撃と見なす、という核ドクトリン改定は、逆に言えば米国など核保有国がウクライナを巡りロシアに反撃のため核使用する機会を与える可能性も含んでいる。危険と言うほかない。

プーチン氏は核ドクトリン改定の理由についてロシアと同盟国ベラルーシにとっての新たな軍事的脅威とリスクが出現したことを挙げ、同時に今日の軍事的政治的状況が著しく変化している点を指摘した。だが、これは自らが命令した軍事侵攻によって招いたものではないのか。

ロシアのウクライナへの軍事侵攻は許すことができない。国際社会はあからさまな主権侵害、国際法違反として国連の非難決議などで侵略を批判し、ウクライナからのロシア軍撤退を求めた。応じないロシアに対して極めて厳しい制裁を科し、存亡の危機に瀕(ひん)したウクライナを支援し、武器供与に踏み切った。

今年に入りウクライナ領内でのロシア軍の攻勢が強まったが、欧米諸国はウクライナが求めた長射程兵器の供与を認めるようになった。ロシア領内の兵站(へいたん)を撃破することが目的で、既に弾薬庫を破壊するなど戦況に少なからぬ影響を与えたと推測される。また8月、ウクライナ軍が越境攻撃によりロシア西部クルスク州の一部を制圧したが、まだ奪還できないことはロシア軍が消耗戦に入っている現実を表している。

ロシア軍の苦戦にプーチン氏は改めて核使用のハードルを下げる核ドクトリン改定により、核恫喝(どうかつ)に威力を持たせて欧米諸国のウクライナへの武器供与を止めたい考えだろう。同時に泥沼化するウクライナの戦況に同盟国ベラルーシが抱く不安を払拭しようとするものだ。

だが、一番の問題はプーチン氏の過ちだ。2年前の2月、ウクライナを2週間ほどの電撃戦で制覇できると考え軍事侵攻を命令した。しかし、緒戦で思わぬ苦戦に陥ったロシアの当局者は、核兵器使用の可能性を口にしてウクライナ支援で結束する欧米諸国をはじめとする国際社会を威嚇し始めた。普通の日常生活を送っていたウクライナの一般国民を巻き添えにした焦土戦は狂気の沙汰だが、その狂気が核恫喝を伴うことに、国際社会は懸念を深めている。

ソ連終焉当時の国境に

英メディアなどによればロシア軍の戦死者は7万人以上、英国防省の推計で死傷者は61万人以上という。1日当たりの死傷者も増加傾向で平均1000人余りとみられている。

このような自国民をも犠牲にする愚劣な侵略をやめることが、ロシアにとっても一番の安全保障ではないのか。ロシアはソ連終焉(しゅうえん)当時の新興独立国との国境に立ち返るべきである。

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