中国海軍の空母「遼寧」が沖縄県・与那国島と西表島の間の接続水域を航行した。8月には長崎県・男女群島沖で中国軍機による領空侵犯、鹿児島県・屋久島周辺では海軍艦艇の領海侵入が起きている。いずれも日本の安全を脅かすもので許し難い挑発だ。自民党総裁選の各候補は、抑止力強化に向けた議論を活発化させる必要がある。
空母が日本の接続水域に
防衛省によると、ミサイル駆逐艦2隻と共に沖縄県・尖閣諸島の北西約210㌔の海域を航行する遼寧を確認。3隻は南進し、与那国島と西表島の間を通過した。中国空母が日本の接続水域に入ったのは初めてだ。
接続水域は領海に隣接する海域で、国際海洋法条約に基づき、海岸から24カイリの範囲で沿岸国が設定。各国船舶に「航行の自由」は認められるが、沿岸国は密輸や不法入国の防止のため一定の取り締まり権限を行使できる。
接続水域を巡っては、中国が一方的に領有権を主張する尖閣諸島の周辺で、中国海警局の公船が昨年12月から今年7月にかけて過去最長の215日連続で航行した。領海への侵入も繰り返している。尖閣周辺での動きに加え、初の領空侵犯を行うなど中国が覇権主義的な動きを強めていることへの十分な警戒が求められる。
遼寧の接続水域航行に対し、日本政府は中国側に「深刻な懸念」を伝えた。しかし、こうした表明を中国が真摯(しんし)に受け止めることはあるまい。
領空侵犯の翌日、自民党の二階俊博元幹事長が率いる超党派の日中友好議員連盟が訪中し、趙楽際・全国人民代表大会常務委員長(国会議長)と会談した際に「遺憾の意」を表明して再発防止を申し入れた。これに対し、趙氏は「中国側から日本の領空を侵犯する意図はない」などと説明した。日本を愚弄(ぐろう)するかのような発言だ。
そもそも領空侵犯に抗議する意味で、議連は訪中を中止すべきではなかったのか。訪中して謝罪も受けられないのでは外交的にはむしろマイナスで、中国に軽く見られるだけだ。
岸田文雄首相は8月に退陣を表明し、バイデン米大統領も7月に大統領選から撤退した。日米の現政権がレームダック(死に体)化した隙を突き、次期政権発足に向けた動きを牽制(けんせい)するため、中国が挑発を繰り返しているとみていい。
中国の習近平政権は台湾統一へ武力行使も辞さない構えだ。台湾有事の際に米海軍の接近を阻止するため、太平洋島嶼(とうしょ)国を取り込む動きも強めている。「台湾有事は日本有事」であることを踏まえて中国の挑発を捉えるべきだ。自民党総裁は次期首相となる。総裁選候補は強い危機感を持たなければならない。
米国や同志国との連携を
総裁選候補のうち高市早苗経済安全保障担当相と小林鷹之前経済安保担当相は、安倍晋三元首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」構想の継承を訴えている。この構想はインド太平洋地域の平和や繁栄のほか、法の支配などの確立を目指すものだ。実現には同盟国の米国や同志国との連携が欠かせない。厳しい国際情勢に対応できる外交・安保政策が必要だ。