国が定める被爆援護対象区域の外で長崎原爆に遭ったため被爆者と認定されていない「被爆体験者」44人(うち4人死亡)が、県と市に被爆者健康手帳の交付を求めた訴訟で、長崎地裁は原告15人への手帳交付を命じる判決を下した。被爆体験者は高齢化が進んでいる。判決を機に、政府は救済を急ぐべきだ。
一部を被爆者と認定
被爆体験者とは、長崎の爆心地から半径12㌔圏内で原爆に遭い、国が定める区域外にいた人を指す。被爆体験に伴う精神疾患などに医療費が支給されるが、医療費が原則無料の被爆者に比べ支援内容に差がある。
被爆体験者は2007年に第1陣、11年に第2陣が長崎地裁に集団提訴したが、いずれも最高裁で原告の敗訴が確定。確定後の手帳交付申請が却下された処分などを不当として、原告の一部が再提訴した。
今回の判決は、一定の科学的根拠を踏まえた上で、原告に放射線による健康被害の可能性があったかを判断すべきだと指摘。区域外でも旧矢上村などの「東長崎地区」では、原爆投下から間もない時期に降雨があったとの証言があり、「黒い雨」が降った区域内の地域とも近いことから「放射性物質が降下した相当程度の蓋然(がいぜん)性が認められる」とした。一方、東長崎地区以外の原告については、放射性物質が降下した事実は認められないとし、請求を認めなかった。
広島の援護区域外にいた当時の住民については、広島高裁が21年、黒い雨を浴びた人を被爆者と認定し、判決が確定。上告を見送った当時の菅義偉首相は「同じような事情の方についても救済を検討したい」との方針を示した。
今回の判決は、黒い雨を直接浴びていなくても内部被曝している可能性があれば被爆者に該当するとした広島高裁判決とは異なる判断を示した。被爆者健康手帳の交付請求を却下され、被爆者と認められなかった原告からは「不合理で差別そのものだ」という憤りの声が上がった。被爆者と認定された原告も「原告全員を認めてほしかった」と述べている。
被爆後に髪の毛が抜けたり歯茎から血が出たりするなど被爆者と変わらない症状が出た被爆体験者もいる。厚生労働省によると、被爆体験者は今年3月末時点で約6300人いる。政府はその切実な訴えに耳を傾け、責任を持って救済しなければならない。
岸田文雄首相は8月、被爆体験者らと面会し、早急に課題を合理的に解決できるよう、同席した武見敬三厚労相に具体的な対応策の調整を指示した。厚労省と県、市による協議が水面下で進められているが、対応策はまとまっていない。
広範囲の救済を目指せ
1994年制定の被爆者援護法は、前文で「放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることにかんがみ、高齢化の進行している被爆者に対する保健、医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じ」るとしている。
政府は援護法の理念に立ち返って広範囲の救済を目指す必要がある。