NHKのラジオ国際放送の中国語ニュースで、中国籍の外部スタッフが沖縄県・尖閣諸島を「中国の領土」と発言した問題を受け、総務省はNHKに文書で注意する行政指導を行った。まさに「放送の乗っ取り」であり、国益を損ないかねない事態だ。NHKは再発防止を徹底しなければならない。
国際放送で「中国領」
問題の放送があったのは8月19日のラジオ国際放送やラジオ第2放送の中国語ニュース内。中国籍の40代男性のスタッフが東京・靖国神社で落書きが見つかったことを報じる際、中国語に英語も交えて、尖閣を「中国の領土」と発言したり、「南京大虐殺を忘れるな。慰安婦を忘れるな。731部隊を忘れるな」などと事前の原稿にはない発言を加えたりしていた。
NHK国際番組基準は「わが国の重要な政策および国際問題にたいする公的見解」を正しく伝えるとしている。国際放送で尖閣を「中国領」だと明言すれば、日本政府の見解だと誤解されかねない。男性がわが国の立場と全く異なる発言をしたことは言語道断だ。男性を雇用していたNHKの関連団体が契約を解除したほか、NHKが男性に信用毀損(きそん)などの損害賠償を求める訴訟を起こしたのは当然の対応だと言えよう。しかし、NHKの側にも脇の甘さがあったことは否めない。
NHKは「事案の発生時に即座に対処できなかっただけでなく、視聴者・国民への適時の説明などでも対応が十全でなかった」とする調査結果を公表した。これによれば、20秒以上にわたる男性の不適切発言中、その場にいた外部ディレクターとデスクは、突然のことで音量を下げるなどの対応ができなかった。出演者のフリートークがないニュースで、今回のような発言は想定していなかったという。
男性とみられる人物が過去に香港の中国系メディアに出演していたこともNHKは把握していなかった。東京電力福島第1原発の処理水を「核汚染水」と表現して報道したこともあったとされる。男性は以前から「この仕事をしていることは、俺にとってはリスクなんだ」と周囲に漏らしており、不適切発言後も「日本の国家宣伝のために、これ以上個人がリスクを負うことができない」と話していた。中国政府の反応を恐れていたようだ。男性の不安にきちんと対応していれば「放送の乗っ取り」を防げたのではないか。
総務省は今回の問題が放送法の規定に抵触すると判断。「国際放送を担う公共放送としての使命に反するもので誠に遺憾」と表明し、再発防止策の徹底と順守状況の公表を求めた。NHKでは国際放送担当理事が辞任したほか、稲葉延雄会長ら4人の役員が報酬の50%を1カ月自主返納する。事態が極めて深刻であることを認識すべきだ。
職員の危機意識向上を
NHKはラジオ国際放送の事前収録への切り替えや「AI(人工知能)音声」の導入検討のほか、国際放送と国内放送との連携を深めてチェック機能が働くようにするなどの対策を打ち出した。今回のような不測の事態に対する職員の危機意識向上も図る必要がある。