きょうは敬老の日。平均寿命が延び、「人生100年」も夢ではなくなる一方、高齢化によるさまざまな問題が表面化し、将来へ不安を投げ掛けている。国民一人一人が長寿の恩恵を受けられるよう、発想の転換、制度の見直しが必要になっている。
高齢者の実感ない人も
国立社会保障・人口問題研究所が発表した「日本の将来推計人口」によると、総人口が減少する中、65歳以上の人口が増加することで高齢化率は上昇を続け、令和19年には33・3%となり、国民の3人に1人が65歳以上となると見込まれている。
昭和25年には65歳以上の人1人に対して現役世代12・1人がいたのに対し、令和4年には現役世代2・0人となっている。この人口構成は、社会保障費など現役世代への重い負担となることが心配されている。一方、期間の延びた老後をいかに安心して幸福に過ごすかが、人々の大きな関心事となっている。
高齢化問題を考える上で、いわゆる高齢者の定義を見直す時期に来ていることは明らかである。各種調査でも、65歳以上を高齢者とすることへの否定的な意見が強くなっている。平成30年閣議決定の「高齢社会対策大綱」では「現状に照らせばもはや現実的なものではなくなりつつある」とされている。
実際に、65歳以上で自分が高齢者であるとの実感が湧かない人が増えている。健康上の大きな問題はなく、それほど体力の衰えも感じていないのに、現役世代ではないという観念を押し付けるのは、本人にとっても社会にとってもマイナスだ。
定年延長や再雇用で高齢者の就業は進んでいるが、人々の意識を変えるためにも、高齢者の定義を70歳以上あるいは75歳以上に引き上げることを真剣に検討すべきだ。社会の各種制度もそれを基に改める必要がある。
65歳以上の就労率の高まりは自然な流れである。労働力不足への対策の一つとしても、さらに進めていくべきである。高齢者には長年蓄積してきた経験やスキルがある。その一方で、体力的にも若い時のような無理は利かず、瞬発力にも欠ける。高齢者が若い世代と共に中核となる世代をサポートする企業文化、社会的な仕組みをつくる必要がある。リモートワークなども活用すべきだろう。
ただ現役世代の一員として活動を続けるには、健康寿命の延びが不可欠だ。「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」である健康寿命と平均寿命の差が大きいと、生活の質を下げるばかりでなく、介護や医療にかかる費用を増やすことにもなる。
周囲の人々と生きる喜び
健康寿命を損なう代表的な要因として、認知症、脳卒中、高齢による衰弱の三つが挙げられる。関節疾患、骨折・転倒なども要注意だ。認知症については治療薬の開発も期待したいが、予防策についても少しずつ研究が進んでいる。これらの疾患に予防効果のある生活習慣の改善などを実践していきたい。
仕事から引退したとしても、われわれは生きている限り、現役である。地域や家族、周囲の人々とのつながりの中で生きることが支えであり喜びである。