兵庫県の斎藤元彦知事が、自身のパワハラ疑惑の告発文書を作成、配布した職員を公益通報者保護法に基づく保護対象としなかったとして批判を浴びている。通報者が不利益を受けないことは、よりよい県政の実現にも欠かせないはずだ。県のトップが法に反して職員の声を封じようとしたのであれば、その責任は極めて重い。
保護対象とせず職員処分
県議会調査特別委員会(百条委員会)での証言などによれば、県西播磨県民局長だった男性は3月中旬、告発文書を報道機関などに配布した。斎藤氏は3月20日に文書の存在を把握し、翌日に片山安孝副知事(当時)らに調査を指示。25日に片山氏らが男性を聴取し、27日に県は男性を解任した。
不信感を抱いた男性は4月4日、文書と同様の内容を県の公益通報窓口に通報したが、県は男性を保護対象とせず、5月7日に停職3カ月の懲戒処分とした。男性は7月に死亡。抗議の自殺とみられている。
斎藤氏は3月の記者会見で、男性のことを「うそ八百」と批判した。9月の百条委では、告発内容がうわさ話を集めていることなどを理由に「真実相当性がない」と主張。職員を保護対象としなかったことに「瑕疵(かし)はない」と証言した。
だが、公益通報者保護法は通報者に不利益な扱いをすることを禁じている。300人超の企業・団体の場合、内部通報に対応するため、必要な体制を整備することが義務付けられ、法律の指針では「通報者捜し」を防ぐ措置も求められている。斎藤氏の対応は法律違反の疑いが濃厚で、看過できるものではない。
斎藤氏は4月中旬、「公益通報の調査結果を待たずに処分できないか」と人事当局に打診。県幹部が「調査結果を待つべきだ」と懸念を示したが、処分を強行したという。百条委では「『懲戒処分をすれば(自身への批判の)風向きが変わるのでは』と知事が言っていると聞いた」との証言もあった。批判を避けるため、公益通報制度の趣旨を踏みにじったのであれば断じて容認できない。
県議会最大会派の自民党は、斎藤氏が辞職しない場合、定例議会が開会する今月19日に不信任決議案を提出する方針を決めた。県議会の全議員が辞職を求めており、可決することが確実視されている。
可決されれば、斎藤氏は10日以内に議会を解散するか自身が失職するかの判断を迫られる。斎藤氏は続投する考えだが、自身の行いが議会や県民の強い不信感を招いていることを深刻に受け止める必要がある。
斎藤氏は自発的に辞職を
告発文書や職員へのアンケートなどからは、斎藤氏が身勝手な要求を押し付けて周囲を振り回してきた様子が見て取れる。こうしたパワハラ体質が法令軽視につながったのであれば、知事としての資質に欠けていると言わざるを得ない。
県議会で不信任案が可決され、知事が議会を解散したとしても、県議選後の議会で改めて不信任案が可決されれば、今度は解散することはできず、失職するしかない。斎藤氏は自発的に辞職すべきだ。