岸田文雄自民党総裁(首相)の後継を決める総裁選が告示された。過去最多の9人が27日の投開票に向けて選挙戦を展開する。新総裁は党のトップであり次期衆院選の「党の顔」になるだけでなく、首相に任命されることも確実だ。「政治とカネ」の問題など党のけじめ・再生策にとどまらず、国家目標を明確に掲げそれを実現するための戦略・戦術を明らかにして競ってもらいたい。
党改憲案の再議論を
各候補にまず聞きたいのが、国家の在り方を明らかに示す憲法の改正案だ。小泉進次郎氏が主張するように、ただ改憲の賛否を問う国民投票を実施すればいいというものではない。必要なのはどう変えるのかの代替案である。
自民党はすでに4項目の改正案をまとめている。ただ同案は、現行の9条を維持した上で自衛隊の存在を明記するという矛盾を残したままの内容だ。「自衛隊は立派な戦力で、そのまま明記すれば戦力不保持の9条2項と整合性が取れない」と強く批判し、2項削除を主張した石破茂氏の見解は正鵠(せいこく)を射ている。
ところが、石破氏は今回の出馬に当たり「党で決めた路線を維持していく」と翻意してしまった。その方が国会議員票を増やすのに都合がいいからなのか。国家の背骨となる最高法規であるだけに、他候補も含め、議論をオープンにして本音を語ってもらいたい。
国際情勢は、ロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記ら独裁者による連携で「力による現状変更」を実行し極めて不安定化している。次期米大統領が誰になるかで不透明さを増す可能性もあり、日本の新首相はどう振る舞うのか。
岸田政権のように、LGBT理解増進法の制定など米国の要求を受け入れ追随することを政権維持に利用すると国策を誤りかねない。親中派とされる林芳正、河野太郎両氏には対中政策を明確にしてもらいたい。石破氏提唱の「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」創設についても議論を深めるべきだ。
急激な出生数の減少問題も、危機的な状況にある。給食費、医療費、出産費用などを減らす政策も重要だが、決め手に欠けている。子供を産み増やすことの意味と価値をアピールして現状打開を図るためにも「家庭」の意義の確認が必要である。
「志」ある総裁を選べ
自民党はかつて「家庭基盤の造成」を追求したが、親と子が別々の姓になる危険性のある選択的夫婦別姓制度を認めるのは逆行していないか。党を二分するが、大いに論戦してほしい。
他にも、経済成長と国民所得増の戦略、大型自然災害に対処するための国土強靭(きょうじん)化・危機管理策、原発などのエネルギー政策、北朝鮮による邦人拉致問題の解決策なども聞きたい。
岸田首相は改憲や少子化対策などについて「先送りできない課題」としばしば口にした。だが、常に本気度に疑問符が付いた。宰相には、国家観、歴史観、実行力が必要とされるが各候補はどうか。口先だけでない「志」のある総裁を選出することこそが国益に直結するのである。