【社説】日韓首脳会談 揺るぎなき関係改善は道半ば

岸田文雄首相が訪韓し、韓国の尹錫悦大統領と首脳会談を行った。今月の自民党総裁選後に退任する首相にとって関係改善の流れをより確かなものにし、次期首相にバトンタッチする「最後の実績作り」という意味もあっただろう。だが、安心はできない。韓国側には歴史認識問題を巡る尹氏の方針に不満や批判がくすぶり、関係改善を手放しに喜ぶムードが広がっているとは言い切れない。

尹氏が反日路線見直し

首相の訪韓は首脳同士が相互訪問する「シャトル外交」の一環で、首相自身は3回目。会談では新たに双方の国民の入国手続きを簡素化させることで合意した。また第三国での有事の際に互いの国民を保護するための協力覚書を締結した。いずれも関係改善を国民が実感できる措置と言える。

両国の関係改善は、尹政権が文在寅前政権による極端な反日路線を見直し、強いリーダーシップで未来志向に踏み出したことで始まった。特に首相と尹氏は何度も会談を重ね、北朝鮮の核問題や中国の覇権主義に対抗し、米国を含め連携する重要性などが一貫して確認された。来年は国交正常化60年の大きな節目だ。関係改善の流れがしばらく続くものと期待したい。

しかし、関係改善が一時的なものに終わらないかという懸念は付きまとう。近年、両国関係に棘(とげ)のように刺さっていた「徴用工」と「慰安婦」の問題を巡り、両国間で結ばれたはずの合意が韓国の政権交代を機に一方的に反故(ほご)にされた。日本が韓国に対し抱く不信感は根強い。

4月の総選挙で国会多数派となった最大野党・共に民主党は、尹氏弾劾を公然と語り、その一環で尹氏の対日政策を「親日屈辱外交」と非難している。

7月に「佐渡島の金山」がユネスコ世界文化遺産に登録された際、当時現場で働いた朝鮮半島出身労働者の来日や労働について「強制的」という言葉が展示物に反映されなかったとして、同党はこれを認めた尹政権を強く批判した。

先月、日本統治からの解放日を記念する行事で演説した尹氏が、歴代大統領が繰り返し言及した対日批判を封印すると、同党の李在明代表は「日本の歴史“洗濯”の先頭に立っている」と指摘した。

このような認識を持つ指導者が次期大統領になった場合、文政権時に戦後最悪とも呼ばれた両国関係が再来しないとも限らない。

政治利用の愚を犯すな

「反日」「嫌韓」ムードの広がりや新型コロナウイルスの感染拡大などで一時期落ち込んだ国民の相手国訪問も今ではすっかり回復した。特に韓国人の訪日数は昨年、国別1位の700万人近くまで達している。

韓国の世論も未来を担う若者の間で日本に対する好感度がアップしている。7月に実施されたある調査では、18歳から39歳までの男女の57・3%が日本に好感を抱き、好感を持てないとした35・1%を大きく上回った。

こうした国民の交流と意識は日韓関係をより良好にしてくれる。「反日」を政治利用して国民感情を煽(あお)り、日韓関係を犠牲にする愚は犯さないでほしい。

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