気候変動の影響で海氷融解が進む北極圏で、中国とロシアが連携を深めている。中露両国の影響力が拡大すれば、西側諸国にとって大きな脅威となる。日米両国などは北極圏への関与強化を急ぐ必要がある。
連携深める中露両国
北極海は冷戦期、ロシア核戦略の中核を担う北方艦隊の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦が哨戒する「聖域」だった。2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻で、北極海では再びロシアと北大西洋条約機構(NATO)がにらみ合うようになった。
ロシアのプーチン政権は、豊富な海底資源が眠る北極圏を経済、安全保障上の戦略地域と位置付けてきた。ウクライナ侵攻で大きな損害を出しているにもかかわらず、北極海沿岸で基地や飛行場の近代化を進め、軍事拠点化を図っている。
一方、中国は18年に「北極政策白書」を公表。資源権益の確保と北極海航路の利用を狙い、巨大経済圏構想「一帯一路」の一環として「氷上シルクロード」を建設する方針を打ち出した。ウクライナ侵攻を受け、欧米諸国がロシア北極圏の開発事業から撤退する中、中国はロシアとの連携を強化している。
22、23両年には中露両国の海軍艦艇が、今年7月には核搭載可能な爆撃機が米アラスカ州沖で合同パトロールを実施。中国海警局とロシア当局は昨年、北極圏での協力に関する合意文書も交わした。
米国防総省は今年7月に発表した北極圏に関する戦略文書で、中露の連携強化が「北極圏の安定と脅威の構図を変える可能性がある」と警戒感を示した。権威主義勢力の中露が北極圏で影響力を拡大すれば、西側諸国の安全が脅かされることにもなりかねない。北極圏の安定を維持するには、米国をはじめとするNATO加盟国の関与強化が求められる。
ただ、米国の取り組みは後手に回っているのが実情だ。米沿岸警備隊が保有する砕氷船は2隻のみで、新造船を調達する計画は大幅に遅れている。ウクライナ侵攻を受けてNATOに加盟した北極圏のフィンランドやスウェーデンとも協力し、プレゼンスを高める必要がある。
注視すべきは、中国とロシアが北極政策を巡って必ずしも一枚岩ではないことだ。ロシアとしては、中国に北極圏での主導権を奪われるのは避けたい。プーチン政権は、中国艦船が北極海への航路として、ロシア核戦力の「聖域」の一つであるオホーツク海を行き来する事態を警戒している。
科学研究で安定に貢献を
ロシアは近年、不法占拠する北方領土の軍事拠点化を進めているが、これには日米だけでなく、中国を牽制(けんせい)する意味合いもあると言われる。西側諸国は中露の連携にくさびを打ち込む戦略も描くべきだ。
米露など北極圏8カ国によって構成される「北極評議会」のオブザーバーである日本も、北極圏への関与を強める必要がある。日本は現在、26年完成予定の北極域研究船「みらい」を建造中だ。科学研究での貢献が、北極圏の安定につながることを期待したい。