【社説】プーチン氏不逮捕 法の支配を強化する外交を

ロシアのプーチン大統領がモンゴルを訪問した。1939年に旧日本軍と旧ソ連軍が戦ったノモンハン事件(モンゴルではハルハ河戦争)の85周年記念式典に合わせ、プーチン氏を招聘(しょうへい)したことによる。国際刑事裁判所(ICC=赤根智子所長、加盟124カ国)が逮捕状を発布している「戦争犯罪」の容疑者プーチン氏に、モンゴルは加盟国の逮捕義務を国内で果たすことができなかった。安全な国際秩序づくりに向け、より実効性のある法の支配の国際的な枠組みを整備しなければならない。

ICCの権威が失墜

一昨年来のロシアによるウクライナ侵攻において違法に子供らを強制移送した容疑で、ICCは昨年3月、プーチン氏の責任を問い、逮捕状を発布した。ロシアによりさらなる犯罪行為が行われるのを防止するため、発布について公表したという。拘束リスクのあるICC加盟国へのプーチン氏の外遊は、それ以降、今回が初めてであった。2国間外交でのモンゴルの不逮捕は、ICCの権威を落とす悪(あ)しき前例になり、また国際社会でモンゴルはマイナス評価を受ける。ICCもウクライナもモンゴルの対応を非難している。

モンゴル政府は報道官の声明として、米政治ニュースサイト・ポリティコ(欧州版)に、ロシアへのエネルギー依存を理由として、プーチン氏の逮捕が執行できなかったと弁明をしている。人口350万人足らずのモンゴルが地理的に南北を、覇権国のロシアと中国に挟まれながらも、独特のアイデンティティーを保ちながら生存し、独立を維持するための「全方位外交」の一面を垣間見せた。

20世紀の社会主義体制でモンゴルは、ソ連による政治支配のため粛清で多くの犠牲者を出すことに甘んじた。90年の民主化後は、輸出入とも貿易相手国のトップである中国との関係を深めた。それでもモンゴルの国民感情はロシアにより近く、中国により遠い。全方位の言葉通り、北朝鮮とも伝統的に友好関係を維持し、同国の核開発問題を討議するための6者協議(2003~07年)、また日本人拉致被害者の交渉では、仲介国として存在感を示そうとしてきた。

ICCには加盟国に逮捕義務を履行させる強制力がないとの弱みもある。また、加盟国に米露中が含まれていないという現実もある。ウクライナ侵攻では、国連で絶大な権力を握る安全保障理事会常任理事国の一角を占めるロシアが犯人であり、東アジアでは別の一角を占める中国が、力による一方的な現状変更を地域にもたらす脅威の張本人である。露中が安全保障どころか危険創出の核心となることで、国連の機能不全を世界が実感するようになって久しい。

日本の外交力活かせ

わが国はICCの最大分担金拠出国(23年予算で約37・5億円)である上に、現在、所長を輩出している。責任ある大国として、国際的な重大犯罪に対する不処罰との戦いに貢献する意思を明確に表明もしている。国際社会において、より実効性のある法の支配の仕組みを強化する取り組みに、外交力を大いに活(い)かし、戦略的なリーダーシップを発揮すべきだ。

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