島嶼(とうしょ)国など18カ国・地域から成る太平洋の地域機構「太平洋諸島フォーラム(PIF)」が中国の圧力に屈し、首脳会議で採択した首脳声明から台湾との交流を再確認した部分を削除して更新版を公表した。オブザーバー参加国でありながら自国の国益を押し付けてPIFの自律性を歪(ゆが)める中国の影響力の浸透が懸念される。
中国がクレーム付ける
PIF首脳会議では米国領サモアとグアムを準メンバーとして承認し、台湾の参加継続を確認した。首脳声明は66条に「台湾/中華民国との関係」という項目を設け、「首脳らは、台湾/中華民国との関係に関する1992年の首脳決定を再確認した」と記述した。
これに中国の銭波・太平洋島嶼国担当特使が、首脳会議閉幕後に「一つの中国」を主張してクレームを付けたことにより、PIFは自ら採択した首脳声明から台湾に言及した部分を削除して公式サイトで公表するという常軌を逸する処置を取った。台湾外交部が「不合理な介入」と非難したのは当然だ。
92年にPIFは台湾を「開発パートナー」と位置付ける決定を行い、首脳会議への参加を認めてきた。今後も台湾はPIFに参加することから、サイト更新での一部文書の削除は付け焼き刃のクレーム対応かもしれない。だが、声明とは広く一般に向けて発表してこそ意義があるものだ。サイトに公表した声明文から92年決定を確認した記述部分が消されたことは重大だ。元に戻すことを望みたい。
台湾はPIF加盟国のうちマーシャル諸島、パラオ、ツバルと国交を結んでおり、これらの国々の意向を踏まえて明記されていた記述部分だけに、PIFの自律的な意思統一が損なわれたことは憂慮せざるを得ない。
これまで中国は、台湾と国交のある国々に対して激しい断交攻勢を続けており、PIF加盟国では2019年にソロモン諸島、キリバスが、今年1月にはナウルが台湾と断交して中国と国交を結んだ。
中国は太平洋、インド洋への海洋進出を活発化するため、各地に拠点を築いている。ソロモン諸島やキリバスなどの島嶼国との国交締結は、中国の太平洋での拠点作りの一環とみられている。中国は今後、PIFに対して92年決定の空洞化を働き掛けるなど台湾排除の試みが加速することが予想される。
太平洋の小さな島嶼国の集まりであるPIFは、近年の地球温暖化による海面水位上昇をはじめとする深刻化する環境問題への取り組み、持続可能な経済発展を主要テーマに掲げており、国際的な協力を必要としてきた。首脳会議には加盟国以外にもオブザーバーとして、中国、米国、日本、カナダ、欧州連合(EU)などの「対話パートナー」、台湾など「開発パートナー」が参加している。
排除の動きはねつけよ
オブザーバー参加国は、PIF加盟国に対して各種の支援を行っているが、大国が小さな島嶼国への協力関係を外交圧力に転用するのは好ましい動きではない。覇権的な行動を強める中国の台湾排除の動きは、毅然(きぜん)とはねつけるべきだ。