【社説】防衛費概算要求 勤務体制改革にも予算投入を

防衛省は2025年度予算の概算要求を決定した。防衛力の抜本的強化を掲げた整備計画の3年目に当たる来年度の要求額は、過去最大の8兆5389億円が計上された。防衛力の強化に当たっては、22年に改定された「国家防衛戦略」及び「防衛力整備計画」において、宇宙・サイバーなど領域横断作戦能力や、機動展開能力・国民保護など重視すべき七つの分野が示されたが、今回の要求もそれに沿った内容となっている。

反撃能力の整備進める

中でも「敵基地攻撃能力」(反撃能力)の整備が重視されており、24年度より2500億円多い9700億円を計上している。事業別に見ると、多数の人工衛星を配備して攻撃目標を正確に狙い定める「衛星コンステレーション」システム構築に着手するほか、スタンド・オフ防衛能力の整備として、国産の地上発射型「12式地対艦誘導弾」や米国製巡航ミサイル「トマホーク」、迎撃が難しい極超音速誘導弾など複数の長射程ミサイルの取得・配備や製造体制の拡充などが盛り込まれた。

防衛省がいま一つ力を入れているのが人材確保である。常態化している自衛隊の定員不足や厳しい自衛官の募集環境に鑑み、概算要求では人的基盤の抜本的強化を目指して①処遇面を含む職業としての魅力化②人工知能(AI)などを活用した省人化・無人化③OBや民間など部外力の活用――の三つを柱に必要な予算を計上した。

処遇面では給与・手当の見直し、隊舎居室の個室化、AI活用では駐屯地などを警備するためのリモート監視システムの導入や無人アセットの取得などの事業が含まれる。ただ急速に少子化が進む中、定年延長やある程度の処遇改善策だけでは早急な改善は望み薄だ。例えば、郷土配置の導入など自衛官勤務体制の思い切った改革も必要ではなかろうか。

防衛費の扱いを巡っても問題が山積している。政府は23~27年度の5年間の防衛費をそれまでの1・5倍となる43兆円に増やす方針だが、財源の一部を賄う防衛増税の開始時期は未だに決まっていない。また物価高や円安による輸入価格の上昇で、計画通り装備品を取得することが難しい状況になっている。

岸田文雄首相は23年11月の参院予算委員会で、円安の状況下でも現行計画を堅持する考えを示しており、防衛省は装備品の纏(まと)め買いや価格引き下げなどで対応する考えだが、それで乗り切れるのか疑問である。今の経済状況が続けば、防衛力整備計画の内容を引き下げるか、防衛費のさらなる増額に踏み切るのか、政治決断を迫られよう。

半面、防衛省では23年度に使い切れなかった不用額が約1300億円に上った。43兆円は対米公約の履行など岸田首相の政治的判断で示された額であり、現場は高額な予算の執行に苦労しているとも伝えられる。

政治の強い指導力発揮を

多額の使い残しを抱えた上、防衛省・自衛隊では潜水手当の不正受給など不祥事が相次いでいる。防衛費の増額にせよ、自衛隊の規律改善にせよ、国民の納得を得るには政治の強い指導力発揮が必要である。

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