中国軍のY9情報収集機1機が長崎県男女群島沖上空のわが国の領空を侵犯した。国際法上、排他的主権を持つ領空へ外国の軍用機が不法侵入することは、攻撃的意図を疑わなければならない事態であり、一触即発の紛争さえ招きかねない。厳重に抗議するだけでなく、領空まで接近させない防空パトロールを励行すべきだ。
中軍機の確認は初めて
中国軍の領空侵犯を防衛省が確認したのは初めてだが、わが国固有の領土である沖縄県・尖閣諸島沖での中国海警局の船舶による領海侵犯や排他的経済水域(EEZ)への侵入は常態化している。中国は尖閣諸島の領有権を一方的に主張しており、力ずくの実効支配を目指しているのは明らかだ。
その上に今回、初めて中国軍用機が領空侵犯したことは軍事的緊張を高めたとみなければならない。林芳正官房長官が「わが国主権の重大な侵害であり、安全を脅かすもの」と非難したのは当然だ。
木原稔防衛相は「中国のわが国周辺での軍事活動が拡大、活発化している」と懸念を表明し、防衛省・自衛隊として「対応に万全を期する」と強調した。Y9は緊急発進(スクランブル)した航空自衛隊機の警告にもかかわらず2分間領空侵犯しており、何らかの意図を持って飛行した可能性がある。断固とした抗議を続けるべきである。
わが国近海での中国の船舶や軍艦、軍用機の行動が活発化していることは、わが国にとって好ましいことではない。領海とEEZを合わせて世界6位の447万平方㌔の面積、1万5528の島を持つ日本の防衛線は広大だ。空自機のスクランブル、海上保安庁巡視船のパトロールの負担は大きなものがある。
近年、中国の南シナ海、東シナ海における海洋進出や台湾侵攻を想定したとみられる台湾周辺での軍事演習、ロシア海軍、空軍と組んで日本列島を囲むように行う合同パトロールは威圧的であり、軍事的緊張の度を高めている。Y9の領空侵犯について中国外務省の報道官は「いかなる国の領空にも侵入する意図はない」と述べたが、言葉通りには受け入れられない。
そもそも問題は2分間の領空侵犯だけではない。中国軍が、Y9を九州のすぐそばの男女群島と五島列島の間の海域にまで飛ばし、周回して情報収集活動を行った軍事行動が問題だ。空自トップの内倉浩昭航空幕僚長は中国側の意図は測りかねるとしながらも、「国際ルールを破る国がそもそも間違っている」と指摘し、中国軍の活動に警戒感を示している。
実力措置取れる法整備を
排他的主権を持つ領空への侵犯機への諸国の対応は、特にそれが軍用機であれば撃墜する例がある。しかし、わが国は憲法9条の制約から攻撃を受けてから反撃が可能となる。
このため中国軍機が日本列島を通過するだけなら、スクランブル機は警告を発するだけで終わる。また在日米軍基地上空の米軍管制の空域を侵犯した場合、米軍の対応も懸念される。レッドラインを定めてわが国が独自に実力措置を取り得る法整備を検討すべきだ。