大手製薬会社アステラス製薬現地法人の日本人元幹部社員が中国の検察に起訴された。50代の元幹部社員は中国でスパイ行為に関わったとして国家安全当局に逮捕され、1年5カ月間拘束状態にあった。日本政府は早期解放を働き掛けてきたが、拘束は長期化するもようだ。
少なくとも17人を拘束
中国では、2014年に「反スパイ法」が施行されて以降、日本人がスパイ行為に関わったなどとして当局に拘束されるケースが相次いだ。少なくとも17人が拘束され、このうち10人が実刑判決を受けた。北海道出身の70代の男性が服役したまま死亡してもいる。
帰国を果たした日本人も中国の報復を恐れ、多くが口を閉ざしたままだ。しかし唯一、日中の交流団体代表を務めていた60代の鈴木英司氏が真相を明らかにしている。
鈴木氏によると、拘束中は部屋の四隅に監視カメラのレンズが光っていた。ベッドの向かいにあるソファに2人の監視役男性が常に腰掛け、交代しながら24時間見張っていた。寝る時も明かりをつけたままで、運動は部屋の中で足踏みをすることしかできなかったそうだ。しかも裁判は非公開で、どのような経緯で拘束され、どういった行為が問題視されたのか明らかになっていない。秘密主義が徹底している。
今回のアステラス社元幹部社員に関しても同様だ。中国当局は、具体的にどういった行為が問題になり、それが何の罪に問われているのかや、今後の審理スケジュールなども一切明らかにしていない。
中国政府はしばしば「中国には中国なりの人権があり、西洋とは違う」と主張する。だが、拘留中の徹底監視や誰にも会わせないといった基本的人権を無視した強権体質は異様だ。
思想信条の自由や言論の自由が保障された日本では、思ったことを自由に口にできる。しかし、全権力を掌握した中国共産党政権の下では「籠の鳥」の自由しかないということだ。籠を構成するのは、国家ではなく共産党に属する中国人民解放軍と公安組織だ。
その籠の空間が年々狭まってきている。中国の14億人の国民だけでなく、国内の外国人をも閉じ込めようと籠の変容を指示している習近平政権の意図こそが問題の核心だ。
権力の頂点に立つ習国家主席の愛読書は『韓非子』とされる。韓非子は儒家との戦いで勝利した法家で、法によって国を治める「法治」を提示した。だが中国の法治は政府が定めた規則を公示し、民衆を従わせることを目的としたもので、統治者は法を超越している。
説明皆無は容認できぬ
共産党政権はその法家思想を継承し、党の意思が法の根拠となっている。この点、西洋の法は民衆だけでなく政府や国家をも縛る規範だ。
中国も西洋も法治を重視するが、その意味は全く違う。中国の法治は共産党政権の指導と監督の下にあり、一党独裁体制を正当化し維持する手段と化している。いずれにしても、説明皆無の不透明起訴は断じて容認できない。