米民主党全国大会がシカゴで開催され、大統領選の民主党候補であるハリス副大統領が指名受諾演説を行った。ハリス氏は共和党候補のトランプ前大統領を厳しく批判したが、かつて賛同した急進左派的な政策を現在も支持しているかどうかははっきりしていない。まずは、自身の政策を明確に伝えるべきだ。
トランプ氏を辛辣に批判
初の女性大統領を目指すハリス氏は、党派や人種、ジェンダーにかかわらず「全国民のための大統領になる」と多様性を前面に出した。また、大統領選について「米国が恨みや皮肉、分断を招いた過去の争いを乗り越える機会」だと述べた。一方、トランプ氏の支持者による2021年1月の連邦議会議事堂乱入事件に言及して「トランプをホワイトハウスに復帰させることの結果は極めて深刻だ」と辛辣(しんらつ)に批判した。
高齢不安があったバイデン大統領の大統領選撤退後、ハリス氏の登場によって民主党は息を吹き返した。だが政策面では、さまざまな課題が指摘されている。事実上の公約となる党綱領はバイデン氏の政策をほぼ丸ごと受け継ぎ、独自色に乏しいのが現状だ。
ハリス氏は20年の大統領選に出馬した際、警察予算削減や地球温暖化対策「グリーン・ニューディール」などの急進左派的な政策を支持した。問題は、こうした政策を現在も支持しているかどうか曖昧なことだ。ハリス氏はバイデン氏撤退後、記者会見を一度も行っていない。民主党の「救世主」というムードが広がる中、自身の政策について明確な説明をしないことは有権者に対して不誠実だ。
自身の政策、ビジョンを明確にできないようでは、いわば「反トランプ」だけを求心力頼みとしていると言わざるを得ない。トランプ氏はハリス氏のことを「共産主義者」と呼んで批判している。
ハリス氏が大統領候補に指名されたのは、トランプ氏の再選阻止には女性で人種的少数派であることが都合が良かったからであり、ハリス氏への評価は民主党内で高くはないとの見方も出ている。岩盤支持があるトランプ氏を相手にリスクを取りたくない党内の有力者たちが、28年大統領選への出馬を見据えていることも無視できない。
ハリス氏の外交や安全保障への関心が低いことも、同盟国の日本にとっては懸念材料だ。演説では中国との関係について、宇宙や人工知能(AI)などの分野で「米国が競争に勝つ」と述べたにすぎない。中国の覇権主義的な動きによって緊張が高まる台湾や東・南シナ海の情勢に、どのように対応するかを明示すべきだ。
日本は自主防衛力向上を
一方、共和党副大統領候補のバンス上院議員は7月の全国大会で、安全保障を巡って同盟国に「タダ乗り」はさせないと強調している。
日本の安全保障において日米安保体制は非常に重要だが、次期米大統領が誰であっても米国への過度な依存は許されない時代を迎えることになろう。9月の自民党総裁選では自主防衛力の向上も大きなテーマだ。