トップオピニオン社説【社説】処理水放出1年 中国「禁輸」撤廃に全力を

【社説】処理水放出1年 中国「禁輸」撤廃に全力を

東京電力福島第1原発で処理水の海洋放出が始まって1年がたった。放出を機に風評による買い控えなどが起きることへ懸念の声が上がっていたが、日本国内では「食べて応援」する動きも広がるなど目立った反発は見られなかった。

一方で、中国による日本産水産物の禁輸は今も続いている。政府は禁輸の撤廃に全力を尽くしてほしい。

基準値を大幅に下回る

東電は今年7月までに、約5万5000㌧の処理水を7回に分けて放出。今月7日には8回目の放出を始めた。処理水は2011年3月の原発事故で溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の冷却などによって生じた汚染水を、多核種除去設備(ALPS)で浄化処理し、大半の放射性物質を取り除いたものだ。水素の一種であるトリチウムは除去できないため、国の安全基準の40分の1(1㍑当たり1500ベクレル)未満になるまで薄めてから放出している。

放出開始以降、国や東電などは海水や水産物のトリチウム濃度の測定を続けており、いずれも国の基準値を大幅に下回る結果が出ている。また国際原子力機関(IAEA)は今年7月、放出が始まってから2回目の報告書を公表し、前回調査に引き続き海洋放出が国際的な安全基準に合致しているとの見解を示した。

科学的根拠の重要性を共有する多くの国は処理水の放出について理解を示している。そんな中で、中国は処理水を「核汚染水」と表現し海洋放出に反対する姿勢を崩さない。

禁輸によって、福島周辺だけでなく、中国向け輸出を行っていた全国の水産事業者に影響が及び、今も厳しい経営状況に置かれている事業者がいる。事実に基づかない過剰な反発については、不当で差別的な措置に当たるとして、政府がより強い対応を取るべきだ。

これ以上の風評被害や新たな輸入規制を生まないための活動も引き続き重要だ。例えば、中国の原発の排水に含まれるトリチウムの量は福島原発の処理水よりはるかに多いことが分かっている。

データに基づく客観的事実を国際社会全体に積極的に知らせ、外国政府関係者だけでなく、海外の一般人がこうした情報に簡単にアクセスできるよう多言語による多角的な発信を続けてほしい。

東電は信頼性損ねるな

東電は今月下旬から、原発事故後初めての核燃料デブリの試験的な取り出しに着手する予定だった。しかし、準備作業中に回収装置の取り付けにミスが見つかり作業を中止。東電側はこれについて「初歩的なミス」と認め、謝罪した。再開時期は未定だという。

デブリの取り出しは廃炉に向けた「最大の難関」とも言われる重要な作業だが、試験的取り出しは新型コロナウイルス感染拡大の影響や装置開発の遅れなどで既に3度延期されている。国内外で処理水の安全性を担保するデータが積み重ねられる中で、東電は廃炉作業と処理水放出の主体としての信頼性をこれ以上損ねないよう、重く受け止め、再発防止に努めてほしい。

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