同窓会組織を巡る不正支出疑惑などの問題を受け、東京女子医大の理事会が岩本絹子理事長の解任を可決した。「一強体制」を敷いて大学を私物化した岩本氏に、理事長の資格がないことは明らかだ。解任は当然の措置である。
推薦入試で寄付金収受
東京女子医大は3月、同窓会組織「至誠会」の元職員で岩本氏の側近だった女性に同会から約2000万円の給与が不正に支払われたとして、一般社団法人法の特別背任容疑で警視庁の家宅捜索を受けた。大学が設置した第三者委員会は、元職員に大学側と至誠会から「給与の二重払い」があったと認定。元職員は自身が運営に関与した会社を通じ、大学関連工事の元請け会社から1億数千万円を受け取った可能性もあるという。
これだけでも乱脈を極めていると言えるが、第三者委の調査報告書によれば、東京女子医大は2015年2月、岩本氏の知人が代表を務める会社とコンサル契約を結び、この会社に計600万円を支払っていたことが明らかになった。第三者委は岩本氏側に「資金が還流した可能性が高い」と判断した。
また至誠会枠の推薦入試制度で受験生側から寄付金を収受しており、文部科学省通知に反する可能性があるとした。卒業生が大学への採用や昇任を希望する際も、至誠会への寄付が事実上強いられたと認めた。寄付をしなかった受験生は推薦を得られなかったという。寄付の有無で受験生を差別し、将来の道を閉ざすような振る舞いは言語道断である。
大学創立者の一族である岩本氏は、教職員の人件費を低く抑える一方、側近には過大な報酬を支払い、自身の報酬も毎年増額させるなど金銭に強い執着心があったと指摘されている。第三者委は一連の問題の原因として、岩本氏が異なる意見を持つ教職員を排除し、学長ら他の理事が取り込まれたことで、ガバナンス(組織統治)機能が「封殺された」と結論付けた。岩本氏による大学の私物化が、極めて深刻な事態につながったことを物語っている。「一強体制」に対処できなかった理事会の責任も重い。
報告書は、19年に理事長に就任した岩本氏が、開設したばかりの「小児集中治療室(PICU)」を閉鎖し、医師の大量退職を招いたことなどを「重大な経営判断の誤り」と非難。岩本氏は、患者や地域医療への貢献にも関心が低かったという。医者は人命を預かる立場であり、重大な責任が伴う仕事だ。しかし医大の理事長が私利私欲にとらわれていては、奉仕精神を持つ立派な医者を育てることなどできまい。
膿出し切る組織改革を
東京女子医大病院の医師7人は7月、文科省を訪れ、一連の問題に対する適切な指導を求めた。医師の一人は、岩本氏の大学支配の中で「萎縮しながら医療を提供してきたので、普通の病院で普通の医療ができる状況に戻してほしい」と訴えた。
学生や教員らが伸び伸びと学び、研究できる環境を整えることは、大学経営者の大きな使命である。理事会は組織改革で膿を出し切るべきだ。