宮崎県日南市で震度6弱の揺れを観測した地震の発生を受け、気象庁は「南海トラフ地震臨時情報」を初めて発表した。南海トラフ沿いで大規模地震が起きる可能性が平常時より高まっているとして「巨大地震注意」を呼び掛けるものだ。大地震や津波が生じた際に安全を確保できるよう、日頃からの備えを万全にしたい。
南海トラフの臨時情報
地震は日向灘を震源とし、震源の深さは31㌔、地震の規模(マグニチュード=M)は7・1と推定されている。気象庁は一時、宮崎や鹿児島など5県に津波注意報を発令し、宮崎港で50㌢、日南市油津で40㌢の津波が観測された。
南海トラフでは陸側プレートの下に海側プレートが沈み込んでおり、プレート同士の境界が急に滑ると大地震になる。今回の地震はプレート境界で起きており、他の地域にも影響する可能性がある。気象庁は、実際に大地震が発生した場合、大きな揺れや津波の被害が見込まれる茨城から沖縄までの29都府県707市町村の住民に対し、今後1週間はすぐに避難できる準備をして生活するよう求めた。
M8以上の地震の場合、最も警戒度が高い「巨大地震警戒」が出される。もっとも専門家によれば、M7以上の地震が生じた後、1週間以内にM8級以上の地震が起きるのは数百回に1回ぐらいだ。それでも通常よりは発生の確率が高まっているので、万一の時の備えは万全にしておきたい。
避難場所や経路の確認、家具の固定、水や食料などの備蓄を行ってほしい。「巨大地震注意」は「巨大地震警戒」とは違って事前避難は求められないが、高齢者や障害者、小さな子供のいる家庭や施設の場合、不安であればあらかじめ安全な場所に移動させることも考える必要があるだろう。
岸田文雄首相は予定されていた中央アジアのカザフスタン、ウズベキスタン、モンゴルの3カ国訪問を中止し、国内での対応を優先する。林芳正官房長官は、臨時情報に関連した情報を装ってSNSなどで迷惑サイトに誘導する投稿があるとして、国民に注意を呼び掛けた。不安に乗じた偽情報には十分に警戒しなければならない。
臨時情報は南海トラフ沿いで巨大地震が過去に繰り返し発生し、短期間で続発した例もあることから導入された。前回起きたのは1944年の昭和東南海地震と46年の昭和南海地震だ。今後30年以内の発生確率は70~80%とされ、政府が2012~13年に公表した被害想定では、津波などによる死者数が最大約32万3000人に上ると見積もっている。被害を減らすには、国や自治体の取り組みだけでなく、一人一人の日頃からの準備が欠かせない。
首都直下なども想定を
もちろん、大規模地震が生じるのは南海トラフ沿いに限らない。今年の元日には能登半島地震が発生した。首都直下地震も30年以内に70%の確率で起きると予測されている。
今回の臨時情報発表を機に、全ての国民が他の大規模地震発生も想定し、備えを改めて確認する必要がある。