自動車の大量生産に必要な「型式指定」の認証試験を巡って大手メーカー5社で不正が判明した問題で、国土交通省がトヨタ自動車に再発防止を求める是正命令を出した。立ち入り検査の結果、これまで公表されていた7車種以外に新たに7車種で不正が発見された。自動車メーカーとして最も重視すべき安全性に関わる問題であり、トヨタは重く受け止めなければならない。
新たに7車種で発見
型式指定とは、自動車の大量生産と安全性を両立させるための制度。自動車メーカーの新車が、安全性などに関する国の認証試験に合格して型式指定されれば、1台ずつ試験を受ける必要がなくなるというものだ。
今回不正が発見されたのは、生産中のRAV4などの4車種と、生産を終了したプリウスαなどの3車種。試験で本来の仕様とは異なるハンドルやドアフレームなどを使用したほか、速度を書き換えるなどの不正が行われていた。
トヨタは7月上旬、内部調査を進めた結果、それまでに発表した7車種以外に新たな不正は確認されなかったと国交省に報告した。しかし、その後やはり内部調査で今回の不正が発見された。トヨタの佐藤恒治社長は「判断基準が甘かった」と述べたが、安全意識や順法精神が不十分だと言わざるを得ない。
道路運送車両法に基づく是正命令がトヨタに出されるのは初めてで、2022年9月の日野自動車、今年1月のダイハツ工業、2月の豊田自動織機に続く4例目。これまでの3社はいずれもトヨタのグループ会社だった。こうした事態が続けば、グループの製品だけでなく日本車全体への信頼を損ないかねないことを強く自覚すべきだ。
一方、トヨタの豊田章男会長は、認証制度に時代に合わない基準や解釈が分かれる曖昧なルールが多いことを挙げて「現場に負担がかかっている」と指摘している。不正をなくすには制度の改正も必要となろう。
ただダイハツでは、開発スピードが重視される中で「(試験の)不合格は許されない」との強烈なプレッシャーから従業員が不正に手を染めたという。利益を上げるために作業効率を高めようとすることは理解できるが、それで安全性が軽視されては本末転倒である。全ての自動車メーカーに安全最優先の意識を徹底するよう求めたい。
企業体質の改善急げ
さらにダイハツの不正を調査した第三者委員会の報告書は、現場を見ようとしない役員と従業員の間の乖離(かいり)に加え、失敗を激しく叱責したり、非難したりする組織風土にも問題があると指摘。6月に開かれたトヨタの株主総会でも、一部の株主が経営陣と現場の「距離」に苦言を呈した。
現場に課題を丸投げしたことが不正につながったとすれば、経営陣の責任は重い。こうした企業体質が改善されない限り、認証制度が変わっても不正の根絶は難しい。豊田氏は株主総会で「ガバナンス(企業統治)とは一人ひとりが自ら考え、動くことができる現場をつくることだ」と述べた。この言葉を早急に実行してもらいたい。