【社説】五輪開会式演出 宗教を信仰する人々に配慮を

パリ五輪開会式で、イエス・キリストと使徒たちを描いたレオナルド・ダビンチの名画「最後の晩餐(ばんさん)」を侮辱するような演出があったことについて、ローマ教皇庁は声明を発表し、「世界が集う名誉あるイベントで、信仰を嘲笑するような表現があってはならない」と訴えた。

五輪に注目する何億もの人々を不快にした不適切な演出であり、次回大会以降は見直されるべきだ。

ローマ教皇庁が批判

スポーツマンシップに則(のっと)り、神聖な聖火を点火する平和の祭典という場をわきまえなければ、どれだけ実績のある演出家によるパフォーマンスであったとしても不興を買う。それも出来の良し悪(あ)しの話ではない。表現の自由があるとしても五輪開会式の場で極めて異常な演出だったのではないか。

構図を「最後の晩餐」と同じようにして、同作品では中央にいるキリストの位置をレズビアンの活動家、左右の使徒らをドラッグクイーン(女装パフォーマー)らに置き換え、卓上には料理の代わりに男性性器を想像させる黒い物体が置かれた。悪趣味で下劣な印象は否めなかったが、あえて宗教的な聖域を踏みにじろうとしたのだとすれば、キリスト教を信じる人々の怒りはもっともだ。

五輪開会式では開催地ならではの国柄を表す演出がされることが多い。前回の東京五輪では「ドラゴンクエスト」などゲーム音楽が開会式の行進曲として流れた。日本で発売されたゲームは世界に広まり、国境を超えて馴染(なじ)みのあるメロディーだ。

今回、パリ五輪はセーヌ川沿いで開会式を行い、五輪マークが灯(とも)るエッフェル塔の周りを幾筋も輝く光線が夜空に幾何学的に放射され、世界に知られるフランスのシャンソン歌手エディット・ピアフの名曲「愛の賛歌」を人気歌手セリーヌ・ディオンさんが熱唱してフィナーレを飾るなど感動的だった。

しかし、女性ソプラノで美しく斉唱されたフランス国歌では「暴君」との戦いが歌われる国柄のためか、革命で首を切られた王妃マリー・アントワネットをイメージするおぞましいパフォーマンスもあった。また、カトリック体制を打倒した革命以降、議会左側に座した左翼の“伝統”が受け継がれたのか、今回教皇庁が憤慨した「信仰を嘲笑するような表現」には世界中から批判が起きていた。

聖書の教え伝える聖画

キリストが十字架にはりつけになる前の晩に使徒たちと食事を共にし、使徒の一人ユダに自身への裏切りを予言する場面を描いた「最後の晩餐」をはじめ、数々の聖画が多くの画家たちによって描かれてきた。それは優れた宗教芸術であるとともに聖書の教えを絵で形象化して伝えたものだ。信者らにとって会うことができない聖書の登場人物のイメージとなってきた宗教遺産と言えよう。

パリ五輪の大会組織委員会は「いかなる宗教団体に対しても敬意を欠く意図はなかった」と謝罪したが、世界には宗教を信じる人は多く存在する。五輪のような世界的なイベントでは演出に細心の配慮や気配りを心掛けるべきである。

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