食料・農業・農村基本法が5月に改正されたほか、不測の事態の際に食料供給を途絶えさせないための食料供給困難事態対策法が6月に制定されるなど、食料安全保障の強化に向けた取り組みが進んでいる。こうした取り組みが効果を挙げるには、若い就農者を増やすなど農業の生産基盤を強化することが不可欠だ。
20年余りで担い手半減
基本法は農業に関する国の基本姿勢を示す「農政の憲法」と言われ、1999年に制定されて以来、本格的な見直しは今回が初めてとなる。改正法の基本理念には「食料安全保障」の文言が盛り込まれ、「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ、国民一人一人がこれを入手できる状態」を確保するとした。
一方、食料供給困難事態対策法は、異常気象や紛争などの際に食料供給が途絶えないよう、事業者に対して出荷・販売の調整や輸入・生産の拡大を要請したり、その計画の作成を指示したりできるようにするものだ。さらに、1人当たりの供給熱量が1日1900㌔㌍を下回った場合、カロリーの高い作物への生産転換などを求める。
背景には、ロシアによるウクライナ侵略や気候変動に伴う自然災害などによって食料の安定供給リスクが高まっていることがある。一方、食料自給率(カロリーベース)は国民の食生活の変化に伴って低調に推移し続け、2022年度は38%にとどまった。
22年末に決定した「食料安全保障強化政策大綱」では、肥料や飼料の国産化などを進めて輸入依存からの構造転換を目指す方針が示された。食料の安定供給を維持するため、法整備が必要であることは論をまたない。
ただ、農業の担い手の不足と高齢化は深刻だ。主に農業で生計を立てる基幹的農業従事者の数は、00年の約240万人から23年には約116万人と半減。その約8割が60歳以上だ。このままでは農業が衰退し、食料安保の強化どころではなくなる。若い担い手をいかに増やすかが大きな課題だ。
基本法では、国内農業の持続的な発展に向け、先端技術を活用したスマート農業を推進し、生産性や付加価値を高めることも打ち出した。生産性を向上させるには、法人化による農地の集約や経営の大規模化なども進める必要がある。
また人口減少で食料の需要低下が見込まれる中、供給能力を維持するため、農産物などの海外輸出強化の方針を示した。23年の農林水産物・食品の輸出額は過去最高の1兆4541億円だった。農業の成長産業化を推進して魅力を向上させ、若い人たちの関心を高めたい。
輸入低下へ官民で知恵を
政府は、農林水産業や食品産業の所得向上のため、価格転嫁などを通じた食料品の「合理的な価格の形成」を目指し、関連法案を来年の通常国会に提出する方針だ。農家の経営安定につなげなければならない。
ウクライナ侵略の影響で輸入小麦が高騰する中、国産の米粉の消費拡大に取り組む動きも出ている。輸入への依存度低下に向け官民で知恵を絞りたい。