【社説】日台海保訓練 同志国との信頼深めたい

海上保安庁と台湾海巡署(海保に相当)が、千葉県・房総半島南方の海上で合同訓練を行った。中国を念頭に置いた訓練を通じ、協力と信頼を深めたい。

中国海警局が活動強化

台湾海巡署の巡視船「巡護9号」と海保巡視船「さがみ」が捜索や救助、通信などの訓練を実施。巡護9号は訓練に先立ち東京港に停泊し、燃料や水、食料の補給を行ったという。

日台は2017年に覚書を交わして以降、双方に近い海域での救難活動を想定した訓練で協力してきた。これまでは非公開で、実施が明らかになったのは初めてとなる。「一つの中国」原則を掲げる中国政府は日本側に抗議したが、今後も日台は訓練を重ねるべきだ。

海保は6月には京都府の丹後半島沖で、米国、韓国と初めて合同捜索救助訓練を実施。昨年6月にも、米国、フィリピンと初の合同訓練を行っていた。海保が米国や同志国との連携を深める背景には、中国が東・南シナ海で覇権主義的な動きを強めていることがある。

中国海警局の船舶は沖縄県・尖閣諸島沖で領海への侵入を繰り返しているほか、台湾の離島・金門島付近でも巡視活動を強化。今月には、金門島の周辺海域で台湾漁船が海警局の船舶に拿捕(だほ)された。この海域は中国側であるものの、長年にわたって台湾と中国の漁船が操業していたという。

中国軍は5月、台湾の頼清徳総統が就任演説で中台統一を明確に拒否する発言をしたことに反発し、台湾を取り囲む形で大規模な統合演習を実施。この際も、海警局は台湾の離島沖で艦隊の訓練を行った。

海警局は18年、準軍事組織の人民武装警察部隊(武警)に移管された。「海上権益維持のための法執行」を職責とし、海上での犯罪取り締まりや治安維持などに当たるが、武警は軍の最高指導機関である中央軍事委員会の指揮下にある。21年には武器使用を認める海警法が施行され、装備も大幅に強化された。法的に「軍隊の機能」が明確に否定されている日本の海保とは異なり、「第2海軍」とも呼ばれている。

尖閣や台湾周辺で活動を強化しているのは、武力攻撃に至らない範囲で存在を誇示する「グレーゾーン事態」を重ねることで現状変更を試みているとみられる。海保には米国や同志国の海保機関だけでなく、海上自衛隊との連携深化が求められる。

安保対話の枠組み創設を

一方、中国は中台統一へ武力行使も辞さない構えを見せている。5月の演習は、港湾封鎖で台湾のエネルギー輸入を阻止するとともに、米国や同盟国の対台湾支援ルートを断ち切るための訓練だったとされる。

22年にペロシ米下院議長(当時)の台湾訪問に反発して中国が実施した軍事演習では、中国の弾道ミサイル5発が日本の排他的経済水域(EEZ)に落下した。台湾から日本最西端の沖縄県・与那国島までの距離は約110㌔にすぎず、演習は「台湾有事は日本有事」であることを示したものだと言える。

日本は、安全保障に関する台湾との対話の枠組み創設を検討すべきだ。

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