防衛省は2024年版の防衛白書を公表した。今年は自衛隊が発足70年を迎えるとともに、今回の白書が刊行50回目の節目に当たることから、巻頭の特集で「自衛隊発足70年の歩み」と題し、戦後の防衛政策や防衛力整備の軌跡を回顧している。
戦後最も厳しい安保環境
本文に目を移すと、グローバルな安全保障環境については、サイバー空間、海洋、宇宙空間、電磁波領域などで、自由なアクセスやその活用を妨げるリスクが深刻化していることに言及した。また領域を巡るグレーゾーン事態が恒常的に生じており、軍事的手段と非軍事的手段を組み合わせるハイブリッド戦が今後さらに増える可能性も指摘。インド太平洋地域は「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面」しており、中国などを念頭にロシアによるウクライナ侵略と「同様の深刻な事態が、東アジアで発生する可能性は排除されない」と厳しい認識を示した。
国別では、中国の覇権主義的な動きを「わが国の平和と安全を確保する上で、これまでにない最大の戦略的な挑戦」と位置付け、沖縄県・尖閣諸島を含む日本周辺で活動を活発化させていると指摘。ロシアとの共同活動を「日本への示威活動を明確に意図したもの」と「重大な懸念」を表明した。台湾との関係は「軍事的緊張が高まる可能性も否定でき」ず、軍事バランスは「全体として中国側に有利な方向に急速に傾斜する形で変化」していると警戒を強めている。運用可能な核弾頭は「23年5月時点で500発超」とし「30年までに1000発を超え、35年まで増加し続ける」と予測した。
北朝鮮に対しては、昨年の軍事偵察衛星打ち上げや、発射の兆候がつかみにくい固体燃料式の大陸間弾道ミサイルの発射など「保有する装備体系の多様化や情報収集手段の確保など、質的なミサイル能力の向上に注力している」との評価を示した。ロシアに関しては、北朝鮮からの武器支援を強く非難した。
一方、わが国を守り抜くため「防衛力の抜本的強化」や「日米同盟」と並び「同志国などとの連携を強化すること」が重要とし、多角的・多層的な防衛協力・交流の積極的推進を強調。レーダー照射問題で関係が悪化した韓国とは、再発防止策で合意し防衛交流が再開したことに触れて「国際社会における様々な課題への対応にパートナーとして協力していくべき重要な隣国」と位置付けた。
現在、自衛隊は人員の確保に苦しんでいる。木原稔防衛相は巻頭で「人的基盤の強化も待ったなしの課題」と強調し、優秀な人材確保のため「あらゆる選択肢を排除せず」との決意を示すが、本文の記述は概ね例年の踏襲に留まり具体性に欠ける。
情報保全への甘い認識
今年の白書では「情報保全に関する取組」の項目を新設し、「情報保全のより一層の徹底を図る」と記述された。だが不正会計や特定秘密の不適切な扱いなどで自衛隊員の大量処分が発表され、白書の認識の甘さが露呈する形となった。防衛省・自衛隊が組織として抱えるこうした問題についても、取り組みの状況も含め白書でしっかりと記述してもらいたい。