トップオピニオン社説【社説】自衛隊不祥事 処遇や勤務環境の改善が急務

【社説】自衛隊不祥事 処遇や勤務環境の改善が急務

防衛省は延べ220人の自衛隊員の一斉処分に踏み切った。懲戒処分としては異例の規模である。対象事案は、潜水手当の不正受給や幹部の無銭飲食、特定秘密の不適切な取り扱い、部下へのパワーハラスメントなど多岐にわたる。防衛省は組織の立て直しを図るが、問題は防衛省・自衛隊の体質に根差したもので、信頼回復は容易ではない。

 閉鎖性や事なかれ意識

潜水手当の不正受給は、潜水艦救難艦の隊員が深海で作業する「飽和潜水」の訓練を実施していないのに手当を申請したり、訓練時間などを水増ししたりして総額約4300万円を不正受給していたものだ。今回の処分対象には含まれないが、自衛隊と業者の癒着も表面化している。海上自衛隊の潜水艦修理契約に絡んで川崎重工業が毎年2億円程度の裏金を捻出し、潜水艦乗員に飲食接待や商品券提供を行ったほか、求めに応じゲーム機なども渡していたという。

共に危険を伴う職務だが俸給は低い。世間から注目される華やかな職域でもない。こうした不満を背景に、組織ぐるみであれば露呈もしまいという気の緩みから不正が日常化したのではないか。予算を使い切らねばならない悪(あ)しき慣行もある。両事案とも特殊な部署の隊員によるもので、自衛隊の閉鎖性が関わっているようにも思える。

幹部の無銭飲食は、他の隊員や関係者が気付かぬはずがない。だが不正を咎(とが)めても、組織から浮き上がり、時に不利益な扱いを受ける恐れもある。波風立てず見て見ぬふりで「われ関わらず」の事なかれ意識が、自衛隊に蔓延(はびこ)っているのではないか。

特定秘密の不適切事案は海自の護衛艦で多発している。適性評価を受けていない隊員が、特定秘密を扱う艦内の戦闘指揮所で作業に加わっていた。長期間の洋上勤務となる艦艇乗り組みは、自衛隊の中でも人手不足が最も深刻だ。資格の有無に拘(こだわ)っていては仕事にならぬというのが管理職の本音だろう。不正の裏に厳しい現場の実態がある。

資格のない隊員を外せば、業務に支障が出るだけでなく、組織の一体感が失われる。共に働いている同僚への信頼感や仲間意識、人間関係を何よりも優先する日本社会の風潮も影響していよう。情報保全の杜撰(ずさん)さは旧軍でも指摘されたが、同根だ。

精強な実力部隊をつくり上げる上で、こうした病根は除去せねばならない。綱紀粛正や閉鎖性の是正が求められる。また、慢性的な人手不足の解消には処遇や勤務環境の改善が急務だ。しかし少子化の進展や正面装備を優先してきた経緯もあり、早急な成果は期待し難い。秘密保全の周知徹底や再教育も必要だが、意識変革は簡単ではない。

 組織の膿一掃する覚悟を

他方、事態の重大さに比して、今般防衛相以下幹部に科せられた処分は軽過ぎはしないか。最高指揮官の岸田文雄首相からも深刻さが伝わってこない。

世論の自衛隊支持率の高さに甘えているのか、あるいは組織が抱える構造的問題が招いた不祥事との認識や危機意識が欠如しているのではないか。事態は極めて深刻だ。組織の膿(うみ)や悪弊を一掃する覚悟を以(もっ)て改革に取り組んでもらいたい。

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