トップオピニオン社説【社説】トランプ氏銃撃 憎悪煽る世論諫め警護強化を

【社説】トランプ氏銃撃 憎悪煽る世論諫め警護強化を

13日、米東部ペンシルベニア州バトラーで、流血し、大統領警護隊(シークレットサービス)に囲まれるトランプ前大統領(AFP時事)
13日、米東部ペンシルベニア州バトラーで、流血し、大統領警護隊(シークレットサービス)に囲まれるトランプ前大統領(AFP時事)

米大統領選挙の共和党候補指名を前にしたトランプ前大統領が、演説会場で銃撃された暗殺未遂事件は、選挙の構図を根底から崩し、米国の政治、社会を大混乱に陥れかねない重大な犯罪行為だった。

これまで世界各地で選挙中の凶行が起きていることから、要人の警護強化は各国共通の重要課題である。

 右耳を撃ち抜かれる

トランプ氏は演説中に自身の右方向のスクリーンに映し出された資料を確認するため振り向いた瞬間、右耳を撃ち抜かれた。正面を向いて演説していたならば頭部右側に銃弾が当たり、死亡していたところだった。奇跡的に助かったと言えよう。

トランプ氏は警護官に囲まれて伏せたが、発砲は続き、1人の命を奪い、2人が重傷を負った。大統領警護隊の狙撃手によって射殺されたクルックス容疑者は、20歳の男で特定の思想や政治信条はなく、動機の解明は難航が予想される。

 だが、二つのことがはっきりしている。トランプ氏を取り巻く憎悪感情の高まりと狙撃犯の侵入を許した警備の甘さだ。憎悪を伴う社会的分断は前回2020年大統領選でより深まった。現職だったトランプ氏と共和党陣営は、不正投票を主張して結果は越年しても確定せず、1月6日にはトランプ氏の支持者が連邦議会に乱入した。

仕返しにバイデン民主党政権は執拗(しつよう)に政界からのトランプ氏排除を画策。公権力を用いて任命した特別検察官、地方検察官によってトランプ氏を四つの刑事事件、計91の罪で訴追した。メディアも批判的な報道を繰り返した。憎悪を伴う「反トランプ」世論を煽(あお)り、大統領選再出馬の芽を摘み取ろうとしたのは明らかだ。

しかし、トランプ氏が共和党候補の位置を固め、6月に行われたバイデン大統領とのテレビ討論で優勢になると、民主党陣営は憎悪を通り越してヒステリー状態になり「バイデン降ろし」の発言が相次いだ。トランプ氏当選が現実味を増したところ、手段を選ばない暗殺未遂が起きたのは偶然ではないだろう。

またクルックス容疑者はトランプ氏が登壇した舞台から120~150㍍ほど右斜め前方に離れた建物の屋根にライフル銃を持って登ったが、周辺にいた来場者が気付いて近くの警護官に知らせても、未然に防がれることはなく発砲を許してしまった。そもそも近くの建物にライフル銃を持った男が侵入するような警備の穴がなぜ生じたのか。抜本的な警備態勢の見直しが必要である。

日本では2年前の参院選の応援演説に立った安倍晋三元首相が暗殺された。その際も演壇に立った元首相の後方に警備の穴が生じ、約5㍍の距離から2度の発砲を招いてしまった。世界に衝撃を与えた事件で、クルックス容疑者に影響を与えた可能性もある。

 候補殺害は民主主義破壊

民主主義は選挙で成り立っており、選挙の主役は候補だ。その候補を殺害することは民主主義の破壊であり、選挙の結果の上に成り立っている政治および社会を狂わせかねない。何よりも警護を厳重にすべきだ。

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