トップオピニオン社説【社説】NATO首脳会議 対中危機感の共有を進めよ

【社説】NATO首脳会議 対中危機感の共有を進めよ

ワシントンDCのアンドリュー・W・メロン講堂でNATO創設75周年記念集合写真(2024年7月9日 写真はユーリ・グリパス/UPI撮影)
ワシントンDCのアンドリュー・W・メロン講堂でNATO創設75周年記念集合写真(2024年7月9日 写真はユーリ・グリパス/UPI撮影)

北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が米ワシントンで開かれ、ロシアが侵略を続けるウクライナへの支援継続で一致するとともにロシアに接近する中国に批判的な姿勢を鮮明にした。中国の脅威に直面する日本にとっても意義は大きい。

 ウクライナに軍事支援

首脳会議ではウクライナに対し、2025年末までに400億ユーロ(約7兆円)規模の軍事支援を行うことで合意した。NATOのストルテンベルグ事務総長は、西側諸国による支援の遅れがウクライナの劣勢を招く事態は「二度と許されない」と断言。米議会で昨年から今年にかけて、支援を盛り込む予算案の審議が野党共和党の反対で停滞したことを念頭に置いたものだと言える。

ロシアのウクライナ侵略開始後、中立国だったフィンランドとスウェーデンの加盟でNATOは32カ国体制となった。さらに、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド(NZ)をパートナー国として3年連続で首脳会議に招待した。NATOが中国の脅威を深刻に捉えていることの表れとみていい。

首脳宣言は、中国を「ロシアの重要な支援者」と位置付け、軍事転用可能な部品や原材料をロシアに提供しないよう求めた。NATOは22年に改定した「戦略概念」で、強権姿勢を強める中国を「挑戦」と明記しており、今回はさらに踏み込んだ形だ。米シンクタンク「外交問題評議会」は、中国について「もはやインド太平洋や台湾だけの問題ではなく、ロシア支援を通じてNATOの直接的な脅威になっている」と指摘している。

岸田文雄首相は首脳会議での演説で、中国を念頭に「東・南シナ海における力による一方的な現状変更の試みは認められない」と改めて強調。ロシアと北朝鮮の軍事協力に対しても「深刻に憂慮すべきだ」と警鐘を鳴らした。NATOとの危機感の共有をどこまで進められるかが問われよう。その意味で今回、日本とNATOとの間で機密情報のやりとりが可能な専用回線の開設で合意したことは成果の一つだ。NATOの連絡事務所を東京に設置する案も具体化を急ぎたい。

一方、岸田首相は韓国、豪州、NZの首脳とも会合を開いた。日米韓、日米豪の防衛協力が進む中、NZのラクソン首相は6月に来日し、岸田首相との会談で「情報保護協定」締結交渉が実質合意に至ったことを確認した。NZは英語圏5カ国の機密情報共有の枠組み「ファイブアイズ」を構成している。NZとの防衛協力も強化すべきだ。

 ドイツとの連携深めよ

岸田首相はNATO首脳会議の後、ドイツでショルツ首相と会談し、経済安全保障に特化した政府間協議の枠組みをつくることに合意したほか、中国の覇権主義的な行動を踏まえ、インド太平洋地域で防衛分野の協力拡大に取り組む方針で一致。日独間では弾薬や燃料を融通し合う物品役務相互提供協定(ACSA)が発効し、外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を早期に日本で開く予定だ。

英国やフランスとは「準同盟」構築が進んでおり、ドイツとも連携を深める必要がある。

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »